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17to20

仕方ないじゃないか。眠いんだから。

ソファの上で、足を投げ放して、ゴロゴロとしている。

あれからもう何日目だっけ……一〇〇時間は絶対起きてるはず。

コーヒーもモカも、眠眠打破さえも効かない。眠い。眠すぎる。

仕方ないじゃないか。失敗するんだから。なかなか難しいんだよ、こういうのは。

でもなんとか完成したし、いいじゃないか。

オレンジ色の、遮光カーテン(ブラインド)越しの揺光は心地いいぐらいに薄暗く。


うつらうつらと、意識が、飛ん、で、あ、ああ……








17.Bed-bugs bite.


何といえば……ああ、ほら、アレ。目の前にシャーペンとか、そういう尖ったものが眉間に近付いてきた時のような感じ。

目頭がジンジンする。

あれ、すごく苦手なんだよね。

後頭部にもなんか変な感じ。今気付いたけれど。

と、ふと目を開ける。


Halt(とまれ)


「あう」


小梅先輩が、真っ赤な顔が目の前にあった。

タコ唇で、震えながら、意を決したかのように。


それに人差し指を押し当てて、とりあえず押し返した。


「なんのつもりですか?」


「えっと、その……約得かな、って」


なんのやねーん。








18.Lap pillow.


彼女の胸元越しに顔が見える。俺は真上を向いている。

知ってる天井だ。見知った顔だ。知ってる、そして落ち着く匂いだ。

でも。


「なんですか、これは?」


「えっと、膝枕?」


そういえば、そうか。

ほのかに温いし、弾力があるし。だいたいそれは分かるってば。ヴぁ。


……WHAT?


「えっと、イヤかな?」


「いえ、気持ちはいいですが、何故ですか?」


「約得かなって」


なんのやねーん。


「なんの約得なんですか?」


「えと、生徒会書記、いや、成績優秀かつ教職員からの信頼厚い優等生のかな?」


スイッチ入ったー!

目付きとか雰囲気が変わるんで、いきなりはやめて欲しい。

本当に、別人みたいに。


凛々しい口調と顔つきで、小梅先輩は視線を外す。まっすぐと前を向いて。


「私はね、自分で言うのも何だけれど、品行方正にしていてよかったと思っているよ。何せ」


そう言って彼女は、再び俺の顔を覗き込む。切れ長の目が、すっと通った鼻梁が、近い。

綺麗な髪がオレンジ色の光を遮って、俺の顔にも垂れ下がる。


擽ったい。顔も、気持ちも。


「君とこうやって放課後が過ごせるから。これ以上の役得はない、よ?」


目の前で、クールビューティーが、照れていた。



「な、あ、その」


言葉がでない。呂律が回らない。舌先がしびれてる。

そんな風に、そんな直線(ストレート)に。

何を言ってるんだ。本当に何を、何?


「えっと、照れるね、こういうの」


「俺のほうが照れます」


「え?」


「照れますよ」


「あ、えっと……照れてくれるんだ。えへへ」


何をそんなに。嬉しそうに、喜んでくれるんだろうか。






19.Her emolument.



ああ、ムカつく。そういう風に、手駒に取られるのは。

この人に。この調子に。


よし、ペースを崩してやろう。

役得ってことで納得してくれるかもしれない。


正直、かなり日にちが空いていた。それだからか、タイミングが掴めなかったってのは本当だ。

だからとても丁度いい。よし。渡してしまおう。



でも、起きたくはなかったから。



「小梅先輩、俺のバッグのなかのヤツ、取ってもらえますか?」

「えっと、これかな?」


彼女に少し、手を伸ばしてもらった。

前傾したからか。彼女の胸が、近付いてくる。


これが、俺の役得、だろうか。








20.so.


「えっと、コレかな?」


「それです」


黄色い巾着袋に包まれた、小さな何か。

実はココに来るまで、執行部室で千愛里(ちえり)に手伝ってもらって包装したものだ。

それを持って元の体勢に戻る。

首を傾げて覗き込んできたその目に、俺の顔が映る。


「これ、何かな?」


"It's a present.Made just for you"


「ゑ?」


そうして彼女はフリーズする。瞬きまで止まってしまって。

ええええええええええええ!?

あと、先輩。「わ行のえ」って、字面でしか分からないいんですからやめてください。


「えっと、えっと、あの、あ、あが、ありがとう、ございます」


「いえいえ。というか、そんなに驚かないでください」


「えと、中身を聞いて、も?」


「クッキーですよ。自信作です」


「あ、ありがとう」








終始にやけ笑いを顔中に張り付かせたまま、事務仕事をする彼女。

困ってしまったのは、彼女が起き上がらせてくれなかったことで。


右手でペンを走らせて、左手で俺の髪を撫でる。そんな彼女。

こんな状態で、寝るわけにもいかず。

心地いいのに。

こんな状態で、先に帰りたいといえず。

寝不足なのに。




彼女が拘束から開放してくれたのは、事務仕事が片付いた後。

オレンジ色のかけらもなく真っ暗な空に、三日月の登った頃だった。







夜の帰り道。それはことさら寒くって、暗くって。

小梅先輩が握ってきた右手だけが、妙に熱くて心地良かった。


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