C 1to5
別に、あの弁当とか、課題とかが転機だったというわけじゃない。
ぼ…俺はそれなりに先輩に世話になってきた。生徒会の雑務以外にも、主に暇つぶしに。
やけに南九州の名前のついたキャラクターが戦いまくってる生徒会漫画や、一存とか円卓のようなライトノベルじゃあるまいし。
それに俺たちのようにメンバーは高校生だ。
生徒会に与えられている仕事なんて、殆どが「後片付け」とかそういうこと。
例を挙げるなら、部活の予算作成とか。高校生に大金いじらせるなよ。
総生徒数五千人以上。ともなって、総部活数も三桁在るとかないとか。
そんなものの予算編成なんて出来るはずがない。
目は通すけれど「一応」でやることだし。
まして生徒間のいざこざなんて対処していられない。
はあ。
でも一応のレベルでは、それなりの量の書類仕事があるわけで。
審議して、判子を押すのもあの量だと本当なら大変なんだろう、と思う。
なんで「思う」なのかといえば、実は先輩がかなりの量を簡略化してまとめ上げ、大体十分の一ぐらいにしてくれているから。
ほんと、俺の下なんかで働く意味があるんだろうか、この人。
兎に角。会長って、なってみても良いこと無いんだよ。本当に。
そんな事を思いながら、オレンジ色に染まった長い廊下を歩いて行く。
生徒会室がこんなに奥まったところにある意味って……
なんて思っていると、ふと思い出す。
ああ、でも。
この生徒会には唯一、漫画みたいな所があったんだった。
それが「執行部」の存在だった。
1.So called"Cherry Blossom"
甲高い風切音を唸らせて、ゴム底のはずの上履きから火花を散らして。
後頭部に飛びついてきた。
「菊盃ァ肴菜ァァァアああああああああああああああああああああああああああああああああ……スゥ―――ッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「『さん』をつけろよデコスケ野郎ぉぉおおお!」
息継ぎまでして言いたいか。そして離れろ。
「アタシデコ出てねーですし! 剥げてねーですし! フッサフサっす!」
それは見ればわかる。生まれてこの方切ったことがないのかと問いたいぐらいに伸び撥ねた髪を、ゴムやピンで無理やり止めている。
先輩を赤面魔女とするならば、こいつは差詰め脳筋女勇者。
会員数一人の生徒会執行部。その執行部長、桜幕千愛里は、馬鹿だった。
2.Shout it LOUD!
「千愛里」
「Sir、なんでありますかあああああ!」
「ちょっと静かにしような?」
なんなのだろうか。このハイテンションは。
その成分を二ミリグラムでいいから分けて欲しい。飲む気はないが。
「ダメっすかね!?」
「駄目だ」
「でも、語尾に|!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(エクスクラメーションマーク)ないと落ち着かないんすよねー!」
ケラケラという形容詞がこれほど似合う人間もいないだろう。
明るい顔に破顔一笑。
そんな事は知らないって。でも話しにくいだろうなとは思った。
3.What's wrong?
「そういえば浮かない顔っすね、さかなさん!」
「先輩とちゃんと呼びなさい」
「先輩!」
「よろしい」
「で、何かあったんすか!?」
「ああ、まあ、なんというか」
「珍しく歯切れ悪いっすね!?」
「ああ」
そういえば、こいつも女だったっけ。一応。
一般的な概念から考えてかけ離れていそうでも。
ならば、何が欲しいか聞いてみるのも一興かもしれないじゃない。
なにせ、わたす相手も普通じゃないんだから。
「なあ、俺がなにか手作りの物をプレゼントするとして、お前なら何が欲しい?」
そして彼女が一旦フリーズした。可笑しい。この脳筋が、勉強以外でフリーズするとは。
そして千愛里は大きく息を吸って。
「ほああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!!!!!!!!」
鼓膜が、痛かった。
4.If possible.
「わ、私にくれるんすか!? いいんすか? 本当にいいんすか? 手作りなんすか?」
いや欲しいかと聞いただけでやるとは言ってない。
けれど。
ここまで、犬がしっぽを振っているように喜んでいるコイツにNOとは。
言えないか。
「そうだな。やるよ」
「ななななななあああ!? そうっすね、肴菜先輩がくれるならなんでも嬉しいっす! 練り消しから石油採掘基地まで、何であろうと! でも食べ物だとよけいに嬉しいっす!」
そこまでは出来てたまるか。
「そこまで酷いものはやらないし、そこまでのすごいものも出来ないが……食い物か。クッキーとか、か?」
無難かつ、作りやすい選択。レシピさえ見てれば、失敗しないだろうし。
「まさか作ってくれるんすか!?」
「欲しいのか?」
「無論!」
というわけで。
先輩にお礼をわたすために、まず千愛里に何か作るというプロセスが必要となったわけだ。
ああ、蛇足だった。
5.But why?
「しっかし、どういう風の吹き回しなんすか!?」
「何がだ?」
ここまでのやり取りに、疑問点があったとすれば。
それは千愛里のエクスクラメーションマークへの執着ぐらいだ。
ほかに、あるだろうか?
「いきなりプレゼントだなんて!」
「ああ、実は日頃のお礼にと思ってな。先輩に何かあげようかと思ってな」
「え」
一瞬、千愛里が固まったのは何だったのか。
正直それは分からなかったけれど、一瞬をおいて復活した彼女には尋ねられなかった。
生徒会室までの廊下も残り短い。その間に、俺は千愛里に何が食べたいのか、どんな味が好きかを聞いた。
彼女は生徒会室に決して入らないから。
「しっとり焼いたシナモンシュガー味のハードクッキー」
明日からレシピを頼りに作ってみよう。
そんな事を思いながら帰宅路を行く。
その途中で、また千愛里に抱きつかれた。




