Call to M
『驚いたね。君からかかってくるなんて初めてじゃないかな? いやはや、とても驚いたよ。最後に電話したのもずっと前だったからね。半年かそこらだよね? ああ、ついさっきまで『あっち』で会っていたのは、確かにそうなんなだけれどね。でもね、『ワトキンス』。我が左腕、無双の杖。僕はヴォイスチャットよりこっちのほうが好きなんだよ。ほら、ロールとかヴォイスチェンジャー無しのほうがいいじゃない、放す時は。まあ、これは僕の個人的な極限れた価値観ではあるんだけれどね。君とおんなじだと嬉しいな。ほら、国の違いは文化の違い、文化の違いは価値観の違いじゃない? 『湯水のように…』って言葉もそこと中東の、ほら、枢軸産地帯の辺りだと意味が違うでしょう? そんな感じなんだよ。ああ、いけないいけない。また喩え話で時間が過ぎてしまうところだった。朝も早い学生さんには、その忙しい日常においてもよく寝よく食べ、そして大いに学んでほしいからね。にほんの高校生は大変なんだろう? 僕にはもう過ぎ去った頃の話だから、思い返せば嬉しくもあり恥ずかしくもあり、いやはや、いやはや。ああ、ところで我が忠臣ワトキンス。……ワトキンス? ワトキンス!? まさか、君! また受話器を離して聞き流しているね!? 酷い、酷いよ君ぃ! この前もそうだったじゃないか! いいよ、それなら君が聞いている何かより大きな声で高らかに歌うまでだ! ミーリさんのヒッツッジ、ヒッツッジ、ヒッツッジ! ミーリさ』
「やかましい! 歌うな、というかハンドルネームで呼ぶな!」
『んん、やっぱりリアルだとキャラ変わるねぇ? そうは言うがね、こっちは午前五時前でしかも船の上、高度数千フィートを航行中なんだよ? ワンコールでとったことを感謝して欲しいんだけれど?』
「それが歌うことにどう繋がるのか教えてくれ」
『もちろん特にはつながらないよ? ああ、そういえば。メリーさんの羊といえば、白いお髭の機械人形のアニメの主人公が歌っていたよね? 僕はアレが結構好きでね。 一応シリーズは全て見えいるんだけれど、アレが最高傑作だと思うよ。次点で×か神かな。ああ、揚げ物は嫌いだよ。見る気がしない』
「ええい、そっちはどうでもいい」
『あらら。まあいい、とにかく本題に入ろうか。What brought you to call me in this late at night?(こんなおそくにどうしたの)」
「お」
「お?」
「女の子へ、お、贈り物の、まあ、そんな感じのものの相談がしたくてな」
『…………』
「おい」
『いや、すまない。君がそんな事を言うとは思わなかった。うん。驚いたよ。戦艦が、それも単艦で外宇宙宙域の宇宙怪獣を倒しきった時よりも驚いたよ』
「そんなにか」
『そんなにさ。しかし、それなら我が右腕にして君の相方、忠義の剣『アルドレッド』に相談したらよかったんじゃないか? 少なくとも僕より君に年が近くて、しかも彼女は女性だろう?僕と違って』
「それはまあ、そうなんだが、なんというか、その」
『歯切れが悪いね。まあ、照れくさいってことなんだろうけれど』
「分かってんじゃねえか!」
『当たり前じゃないか。こう見えて僕はもう大人なんだし。それに君は僕の仲間の一人なんだし』
「よくそんなストレートに言えるな」
『それが僕の僕所以だよ』
「……まあ、納得しておいてやる」
『ありがとう。まあ、それはそれとして、どういう意味合いでのプレゼントなんだい? 愛の告白? エンゲージ? プロポーズ?』
「な! アホか! ……そういうものじゃない。お礼だ。勉強を教えてもらっただけだし、その、御礼だ御礼」
『御札?』
「次活字ボケをしたら電話を切って着拒、ギルドを抜けてGMにギルドの裏帳簿送るからな」
『ごめんごめん。まあ、なるほど。そういう事ならあんまり込んだ物じゃない方がイイね』
「だから分からなくってな」
『ふうむ……なあ、何がいいかな、梅桃? ああ、うん……ああ、なるほど。そういうのもありかな。なるほどなるほど。そういうのはいいかもね。ありがとう』
「梅桃?」
『娘。僕のところの長女』
「はあ!? む、娘!? しかも長女って」
『そ。二人いるよ。今年で十八歳の長女と十四歳になる次女あいるよ。ああ、まあ、それはともかく。それでね今聞いたんだけれど、君がなにか作っていってはどうかな? クッキーとかそういうの。男の子がそういうのって僕的にはキュンキュンするけれど』
「……なるほど」
『じゃあ、頑張ってね。僕も君の手作りって食べてみたいけれど、まあ、それはまた今度の機会に。その時は僕のために作ってね?』
「藁人形を?」
『言ってしまったら、呪詛返しなんじゃないかな?』
「……こちらからかけておいて何だが、もう寝ろ」
『酷いなぁ、もう。まあでも、僕も明日、いや、今日か。とにかく早いしね。二時間後には会議始まっちゃうもの。それじゃあ、オヤスミ』
「ああ、おやすみ。ああ、あと」
『ん? なぁに?』
「ありがとう」
『いいえいいえ。じゃあ、オヤスミのキ』
ガチャン!




