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第2話 優しさは義務なのか?

高架下は、コンクリートの冷え切った匂いがした。


アホライダーは、マスクの隙間にねじ込んだタバコから細く煙を吐き出し、一人ごちる。


「優しさ、か。……私には、そんな機能は備わっていないはずだが」


自分の声は、樹脂製のマスクの中でこもって響く。かつての自分なら、もっと違う言い方をしただろうか。今となっては思い出せない。


不意に、鼻をすする音が聞こえた。


フェンスで仕切られた立ち入り禁止区域の前に、一人の少年が立ち尽くしている。その視線の先、線路脇の泥濘に、最新式の携帯ゲーム機が転がっていた。


「……面倒くさいな」


アホライダーは呟き、少年の横に立った。赤い複眼が少年を見下ろす。少年は一瞬、その不気味な銀色の笑顔に身をすくませた。


アホライダーは何も言わず、フェンスの太い針金に白い手をかけた。


ミシミシ、と嫌な音が響く。


怪力だが不器用な彼は、加減を知らない。フェンスは無残にひん曲がり、人が通れるほどの隙間ができた。


彼は泥の中に足を踏み入れ、ゲーム機を拾い上げる。白いブーツが茶色く汚れたが、彼は一瞥もしなかった。


ひん曲がったフェンスから戻り、泥だらけのゲーム機を少年に突き出す。


「……ほら」


少年は、泥まみれのヒーロー(?)を上から下まで眺め、おずおずとそれを受け取った。


「……あ、ありがと」


「…………」


アホライダーは、それ以上の言葉を待たずに背を向けようとした。感謝されたいわけではない。


ただ、老婆の言った「優しさ」を確認したかっただけだ。だが、少年の言葉が背中に届いた。


「でも……子供を助けるのって、大人の義務なんでしょ? 学校の先生が言ってたよ」


アホライダーの足が止まった。


ゆっくりと振り返る。銀色のマスクは、相変わらず完璧な笑顔を浮かべている。


「……義務?」


「そう。大人は子供を守らなきゃいけないんだって。だから、おじさんが今これをしてくれたのも、当たり前のことなんだよね」


少年はそれだけ言うと、ゲーム機を服の袖で拭きながら、逃げるように走り去っていった。


高架下に、電車の通過する轟音が響き、過ぎ去っていく。


後に残されたのは、ひん曲がったフェンスと、泥で汚れた白い手袋。


「義務、か。……私にとってのそれは、この脱げないスーツと同じようなものか」


アホライダーは、新しくタバコに火をつけた。


心が動いたわけではない。ただ、やらなければならないからやっただけ。少年はそう言った。


「面倒くさいな。……まあ、どうでもいいか」


銀色の仮面の下で、彼は一つも動かない表情のまま、紫煙を深く吸い込んだ。

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