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山脈の標(しるべ)清武2026  作者: ZGOsKT


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2/2

静寂を切り裂く「山脈」の鼓動

ブルペンへ向かう道すがら、蓮の胸の高鳴りは、春の陽気のせいだけではなかった。

一眼レフのストラップを握りしめ、彼女は一般観覧席の最前列に陣取る。そこは、プロの魂が激突する音がもっとも鮮明に聞こえる場所だ。

やがて、先ほどまで柔らかく笑っていた男たちが、戦士の顔をして現れた。

捕手のミットが乾いた音を立てるたび、見学席に微かな振動が伝わる。

「吹田の主婦」の茶目っ気など微塵も感じさせない、圧倒的な威圧感。そこには、日本最高峰の「山脈」が連なっていた。

山岡泰輔: 芸術的な曲線を描く縦のスライダー。精密機械のような制球力。

山下舜平大: 地鳴りのような唸りを上げてミットを突き上げる、規格外の剛球。

山田修義: 熟練の技が光る、流れるようなピッチング。

その中心に、山崎颯一郎がいた。

焦点フォーカスの中の背番号21

蓮はファインダーを覗き込み、ピントを合わせる。

マウンドに立った颯一郎は、まるで別人のようだった。190センチを超える長身が大きくしなり、長い右腕がムチのように振られる。

「――ッ、パァァン!!」

空気を切り裂くような破裂音。

スピードガンには「158km/h」の数字が躍る。

八年前、細かった彼の肩は、今や幾千のボールを投じ、幾多のピンチを背負ってきた自信に満ちあふれていた。

「……かっこいい」

思わず独り言が漏れた。

ファインダー越しに見る彼は、あまりに遠く、あまりに高い。

けれど、一球ごとに滴る汗や、マウンドの土を蹴るスパイクの音までが、レンズを通して蓮の心に直接流れ込んでくる。

変わらない熱量

投球練習を終え、タオルで汗を拭いながら颯一郎がこちらを見た。

大勢のファンがいる中で、彼は一瞬だけ、蓮に向けて悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。

その瞬間、プロ野球選手としての威厳ある「山」の向こう側に、八年前、ペンを落として照れ笑いしていた「颯ちゃん」が透けて見えた。

「蓮ちゃん、撮れた? 今の、結構いいボールだったでしょ」

練習終わりの通路。少しだけ距離を置いて並んで歩く。

父から譲り受けたカメラには、八年前には想像もできなかった、凛々しく、逞しい「背番号21」の姿が刻まれていた。

「はい。……最高の山脈、見せてもらいました」

蓮が液晶画面を見せると、彼は「うわ、俺こんな顔して投げてんの? 怖っ!」と大声を上げて笑った。その屈託のない声は、清武の青い空へと溶けていった。

八年の月日は、少女を大人に変え、少年をエースへと変えた。

けれど、二人の間に流れる空気だけは、あの日あの場所で交わした約束を覚えているかのように、温かく凪いでいた。

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