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人族を裏切った王子、魔王の右腕となって人類を蹂躙する   作者: イチジク浣腸


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1/3

人の子は死に怪物が誕生す

 俺の名前はアーシェ・ヴァルトハイム。

 人の王と魔族の女の間に生まれた、忌み子だ。

 魔王城の玉座の間。俺は今、膝をついている。目の前に座っているのは、世界を滅ぼそうと企てている災厄そのもの——魔王だ。


「なるほどな。お前が人族の送り込んできた刺客とやらだな」


 魔王の声には、予想していた殺気が微塵もなかった。

 簡素な作りの玉座から注がれるのは、玩具を見るような、純粋な興味だけだった。

 俺の体は、もはや原形を留めていない。

 四天王のうち三人を越えてきたが、勝利などなかった。

 命も誇りも、すべてを削り、引き換えに堅牢な門をこじ開けただけだ。

 右腕は折れ、左目は潰れ、肋骨も何本か逝っている。

 それでも――俺は、魔王の目の前に立っていた。


「クッ...殺さないのか?」


 血を吐きながら問う俺に、魔王は愉快そうに笑った。


「殺すには惜しい。お前の目を見れば分かる——お前は人族を憎んでいるな」


 図星だった。

 俺はただ魔王を殺すために育てられた。

 正確に言えば、「魔王と相打ちになるための道具」として作られた。

 母は魔族だった。

 魔王軍の一員として人族の村を襲撃した際、ヴァルトハイム王国第三王子である父に捕らえられた。

 父は母を殺さなかった。

 理由は単純だ。魔王との闘いに利用するため。

 そして母の腹に、子供が宿ってしまった。

 父自身の子が。


「これは神の啓示だ」


 父はそう言ったらしい。


「忌々しい魔族の血を引く子なら、魔王の不死性を打ち破る鍵になるかもしれない」


 魔王は、人のあらゆる攻撃を無効化する。

 剣も、魔法も、毒も、呪いも――何一つ通じない。

 だが、魔族の血を引く者なら。

 魔王と同じ「理」を持つ者なら、あるいは――。

 その仮説のもと、俺はこの残酷な世に生まれてしまった。

 母は俺を産んですぐに死んだ。

 いや、殺された。「用済み」として処分されたのだ。

 俺の人生に、温もりなんてなかった。

 三歳で剣を握らされ、五歳で初めて人を殺した。

「訓練」という名目で、罪人を斬らされた。

 七歳で魔獣と戦わされ、十歳で捕虜の魔族と殺し合いをさせられた。


「お前は道具だ」


 父は何度もそう言った。


「お前のその薄汚い命には魔王を殺すという一つの目的しか存在しない。それ以外に価値はない」


 感情を持つな。

 痛みを訴えるな。

 弱音を吐くな。

 友を作るな。

 愛を知るな。

 俺は、完璧な「兵器」として育てられた。

 そして十八歳の今日、魔王城への特攻を命じられた。

 出陣前夜。

 俺は偶然、父と宰相の会話を聞いてしまった。


「陛下、本当にアーシェ王子一人で向かわせるのですか?」


 宰相が不安そうに尋ねる声。


「ああ。どうせ死ぬ。護衛など無用だ」


 父の声は冷たかった。


「ですが、護衛を付ければ万が一でも成功する……」


「成功などせんよ」

 父は鼻で笑った。


「あれは所詮、魔族の血を半端に引く異端児だ。そんな奴に魔王を倒されてたまるか。」


「では、なぜ」


「消耗戦を狙っている。

 魔王が不死だとしても、あの魔族と血を引く忌み子が命を賭ければ、多少は追い詰められるはずだ。

 魔王が弱ったところを、本命である聖騎士団が討つ。

 それだけの話だ。」


 宰相が納得したように息をつく。

「なるほど……しかし、もし生き延びて帰ってきたら?」


「億が一にもあり得ないが、その時は即刻、処分する」

 父の声には一切の迷いがなかった。


「あんな化け物、生かしておいても民が怖がるだけだ。魔王が死ねば用済みだ。だから、生きて帰ってきたとしても『魔王に呪われた』とでも言って処刑すればいい」


 その瞬間、俺はすべてを理解した。

俺は最初から「王子」ですらなかった。

ただの実験体。使い捨ての弾丸。

どう転んでも殺される運命、人類達の障害物。

そして――

一切合切、親に愛されていなかった。

だから俺は、魔王の前で剣を捨てた。


「魔王よ」


 血まみれのまま、俺は頭を下げた。


「俺をお前の右腕にしてくれ」


「ほう?」


 魔王が興味深そうに身を乗り出す。


「俺には人族を効率的に殺す技術がある。対魔王用に開発された暗殺術、魔力を遮断する剣技、不死を殺すための『概念武装』の扱い方——全てをお前に捧げる。対人類にもきっと活かせる。」


「面白い」


 魔王は笑った。


「だが、なぜ俺を殺さない? お前はそのために来たのだろう?」


「.....父を、人々を殺すためだ」


 俺は顔を上げた。


「俺は父を許さない。人族を許さない。この腐った世界を許さない。だからお前の力を借りる。俺に復讐の舞台をくれ。」


 魔王はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと立ち上がり、俺の前まで歩いてきた。


「アーシェ・ヴァルトハイム。その名も捨てるか?」


「いや」

 俺は即答した。


「その名のまま、俺は人族を裏切る。『ヴァルトハイム王国の王子が魔王に跪いた』という事実こそが、父への最高の復讐だ」


 魔王は心から愉快そうに笑った。


「よかろう。お前を我が軍の『殲滅卿』に任じる。人族を容赦なく蹂躙せよ。そして、楽園を築こうアーシュ・ヴァルトハイム」


 その日、人族最高の対魔王兵器として生まれた子は死んだ。

 そして、魔王軍最悪の怪物が生まれた。

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