第1話 理不尽な夜
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係がない架空のものです。
20XX年7月末。
夏休みに入り、東京から遠出して海水浴を楽しんだ佐藤一家は、追い越し車線を法定速度で走り、帰路についていた。時刻は深夜0時を過ぎ。他に車はなく、高速道路は静寂に包まれている。車内では、父親の運転するワンボックスカーの2列目に、次女の美咲(15歳・中学3年生)、隣で眠る長女の彩奈(17歳)、後部座席には長男の大輔(20歳)、ぐっすり眠る次男の健太(10歳)、助手席に母親が乗っている。
フロントガラスの向こうは、濡れたアスファルトがヘッドライトに照らされている。あと20分ほどで自宅に着く距離だ。美咲は隣で眠る彩奈の黒髪をそっと撫でた。運転席の父と助手席の母は疲れているだろうに、楽しそうに小声で会話を交わしている。
「今日一日、みんなが楽しそうでよかった。また一つ、いい思い出ができたね」
父がぽつりと言った。大家族なので、家族旅行は久しぶりだった。ここにいる誰もが、この平和な時間が永遠に続くものだと思っていた。
だが、その温かい家族の時間を切り裂いたのは、一台の黒い高級セダンだった。
後ろから猛烈な速度で接近し、車間距離を詰めてくる。セダンはパッシングを繰り返した後、蛇行しながら美咲たちの車の横ギリギリをかすめ、急ハンドルで目の前に割り込んだ。父親は慌ててブレーキを踏みこむと甲高い音が響き、美咲は激しく前のシートに打ち付けられた。
「おい、ちんたら走ってんじゃねぇよ、バカが!」
窓を開けたセダンの運転席から、下品な罵声が聞こえた。運転していたのは、いかにも運転が上手いと勘違いしているナルシストな男だ。助手席には、金目当てで付き合っているような、煌びやかな宝石を纏った化粧の濃い女が座っていた。
寝ていた彩奈と健太もその衝撃にたまらず目を覚ます。
「なにがあったの!?」
彩奈が恐怖の表情で父に問う。
「煽り運転だ」
大輔が焦った表情で叫ぶ。
男はさらに苛立ち、わざと何度も急ブレーキを踏んで煽り続ける。父親は事故にならないよう、慌てて車線変更をしたが、男の車は美咲たちの車に横から体当たりをするような素振りを見せる。
「いい加減にしろ!」
父が叫び、第1走行車線へ車線変更する。雨上がりで塗れた道路にタイヤが滑り、冷静になろうとハンドルを握りしめた、その瞬間。男は再び、猛スピードで横から体当たりするような勢いで急接近した。
父は咄嗟にセダンとの接触を避けるため、アクセルを踏み込む。しかし車は制御を失い、高速道路の壁にそのまま突っ込む。激しい衝撃と、鉄板が軋む凄まじい音が車内に響いた。シートベルトに締め付けられシートに頭を激しくぶつける痛みの中、美咲は体がふわりと宙に浮く感覚を覚えた。車は夜の闇へと放り出されていた。
美咲の意識が途切れる直前、聞こえたのは、加害者の車から響く、楽しそうな声だった。
「見たかよ今の!映画かっつーの!」
数秒の浮遊感の後、凄まじい衝撃。車は下の一般道路に落下し、激しく炎上。一般道路を走っていた8台の車を巻き込む大事故となった。
男は爆笑していた。助手席の女は青ざめていたが、「そ、そうだね」と、男に合わせ引きつった笑顔を作った。
彼らはそのまま闇の中へ逃走。目撃者もなく、ドライブレコーダーもない、加害者にとって完璧な条件の事故だった。
シリーズ投稿のやり方が説明を読んでも出来ない(汗)




