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ギルド嬢シェリーの探偵日記2

作者: 藤谷 葵

【1】


「ねえ、シェリー。消える死体の噂を聞いた?」

「消える死体?」


 ギルドの受付で、暇をしている時間に同じく受付をしている同僚が、話しかけてきた。

 ギルドは別に閑古鳥ではない。依頼を完了して報酬を得た冒険者たちが、併設された酒場で騒いでいる。もう今日の仕事は終わりモードの冒険者たち。当然、私たちの仕事もほぼ終わりだ。

 私はその噂話が気になって、尋ねてみる。


「どんな噂?」

「なんでも、首を切られた死体が最近消えるという事件が多発しているらしいわ」

「事件? 殺人事件が起きているの?」

「それがよくわからないらしいのよ。ギルドの方にも、衛兵の方にも、行方不明者の話は出て来てないのよ」


 同僚は両手を広げてお手上げの仕草をしている。


「消える死体か……」


 私は顎に手をあてて、考え込んだ。


【2】


 同僚と仕事帰り。飲み屋から出てきた。ギルドに併設された酒場でも飲めるのだが、そこで飲むと仕事の延長線上のような気がして、気持ちよく酔えない。その為、大抵は他所の酒場に飲みに行く。

 酔いながら同僚と肩を組みつつ、仕事の愚痴をこぼしながら、二人で歩いていると、同僚が立ち止まった。


「ん? どうしたの?」

「……なんかあの路地、人が倒れてない?」


 私と同僚は、仕事柄のせいかその路地の中へと入っていった。路地の中は薄っすらとしか見えない。確かに倒れている人はいる。私たちと同じ酔っ払いか?

 駆け付けると、首を切断された死体が転がっていた。


「ひっ!」


 同僚が悲鳴を上げた。私も死体を見て、酔いが醒めていく感覚を感じた。

 私は怯えている同僚の方を振り向き、指示を出した。


「詰め所に行って、衛兵を呼んできて!」

「う、うん、わかった」


 彼女の背中を見送ると、また視線を死体に戻す。すると、そこにあったはずの死体は消えていた。

 私はまだ酔っているのかと、目を擦り、再度、死体があったはずの所を見つめる。だが、死体はない。


(私の見間違いか? いや、同僚も見ている)


 私は路地を見つめる。つながる道は、あの一瞬で誰かが死体を持ち去ることができる距離ではない。何より、移動する際に、どうしても何らかの物音がするだろう。その物音すらなかった。


【3】


 翌朝、二日酔いに悩ませていると、ギルド内は騒ぎになっていた。


「また死体が消えたんだって?」

「被害者の身元はどうなってるんだ?」


 様々な憶測が飛び交う中、私は同僚と日常業務をしつつ、小声で話しかける。


「昨日の出来事がなんでもう、噂になっているんだろう?」

「あっ! 私がうっかり話しちゃった」


 同僚が、悪びれもなく口にした。舌をペロッと出している同僚に対して、私は溜息を吐いた。


 昼休みになり、ギルド内の休憩室でお弁当を食べていると、ギルドマスターも食事をしにきた。


「マスター、今日も愛妻弁当ですか? ラブラブですね」

「うるせぇ!」


 顔を赤らめながら、ギルドマスターはお弁当の蓋を開けた。中を横目で見ると、私の手作り弁当と違って、栄養バランスは良さそうだし、見た目も綺麗だ。女子力的な敗北感を感じ、がっくりと項垂れる。

 ギルドマスターは、食事をしながら話しかけてきた。


「昨日の消えた死体の話なんだが、目撃者がお前らだって?」

「ええ、そうですが、それが何か?」


 ギルドマスターは、頭をガシガシと掻きながら、迷惑そうにその問いに答える。


「衛兵隊長が、目撃者の二人に立ち会って状況を知りたいんだとさ。食事を終えたらいけるか?」


 私と同僚は、顔を見合わせて頷く。


「わかりました。食べ終わり次第、現地調査に行ってきます」


【4】


 食事を終えて現場に向かうと、既に人だかりができている。もう住民にも昨日の出来事が知られているようだ。まあ、連続で殺人事件が起きていたら、おちおち暮らしていられないだろう。

 私と同僚は、ギルドカードを提示して、現場に入る。


「こんにちは。ギルドから来た調査員です。そして、第一目撃者です」

「ああ、よろしく頼むよ……ってシェリーか。シェリーが目撃者だったのか?」

「ええ、まあそうですね」

「それなら話は早い。シェリーの中では答えが出ているんじゃないか?」


 衛兵隊長が、期待の眼差しで見つめてくる。


「……いえ、昨夜は酔っていたので、自信はありませんね」

「そうか……」


 衛兵隊長はあからさまにがっかりとしている。まあ、私だって酔いたいときはある。それに対して文句は受け付けない。私は早速調査を開始する。


「それじゃあ、早速、現場を拝見させて頂きますね」


 衛兵隊長にそう伝えて、同僚と二人で辺りを確認した。

 路地を調査していると、誰かが投棄したと思われる壊れた木箱のそばに、転移石の欠片があった。使われて砕け散ったものであろう。


(なんでこんなところに? 殺人犯が逃げるために使った? 死体も担いで? いや、あの時、この場所には犯人らしき人物はいなかった。死体があっただけだ)


 酔いで自信がなかった記憶を、頭をフル回転させ、記憶の断片を繋ぎ合わせていく。

 鑑定スキルを使ってみるも、血痕は見つからない。鑑定スキルは、血を拭き去った後でも、発見することができる。それが見つからないというのはどういうことだ? 別の所で殺されて、ここに運び込まれた?

 現場の検証を終えた私たちは、近隣住民に聞き込みを行った。だが、不審な人物は目撃されていないということだった。


 現場の調査が終わり、衛兵隊長に挨拶をしてギルドに戻ることにした。

 私は考えつつ歩いていると、ふと気になったことがあった。


「ちょっと調べものがあるから、先に帰っていて」


 同僚にそう告げると、私は図書館へと向かった。


 図書館に辿り着くと、早速、魔法関連の本が置いてある棚に向かった。

 そこで、蘇生魔法の本を取り出してみる。蘇生魔法は研究中の魔法である。論文では可能説と不可能説が対立している。

 新しそうな本に目を通してみるが、まだ蘇生魔法が発見されたという情報はない。

 本を棚に戻すと、他の魔法が頭に浮かんだ。

 私は魔法辞典を手に取り、読書用の席について辞典を開く。

 そして、『透明化魔法』について調べてみる。だが、透明化魔法は透明にはなるが、物音は消せない。すると、物音を消すような魔法も併用したか?

 そう思い、辞典を隅々まで探すが、音を消すような魔法は、見つからなかった。

 魔法辞典を本に戻し、ギルドに帰ろうとしたとき、なんとなく『異種族辞典』が目についたが、この時の私は、その重要さに気づかなかった。


【5】


「「「異種族交流?」」」


 ギルドメンバーが朝の会議の中、議題に上がった。

 今までギルドは人族のみだったが、試験的に異種族も加入させてみようという、上からのお達しらしい。

 そこで、私はふと昨日の異種族辞典が頭をよぎったが、すぐに議題に集中した。


「それで、異種族と言っても色々いるので、今回はエルフ族とドワーフ族が試験的に加入することになる」


 そう言われて、何か心に引っかかるものがある。会議が終わり次第、ギルドマスターに許可を取り、消えた死体の聞き込み調査を再開することにした。

 ただし、今度は人族以外の種族。もしかしたら、人族以外で秘匿している情報があるかもしれない。

 私は早速、ドワーフ族とエルフ族に聞き込みをしてみた。この二種族を選んだのは、ギルドに試験的に加入させるということは、友好的であるという判断からなので、調査にも協力してくれるだろうと思ったからだ。

 すると、エルフ族に聞き込みをしていると、有力な情報が得られた。


「それってまるでデュラハン族みたいだね?」

「デュラハン族?」


 その言葉を聞いて、私の中の記憶を探る。確かデュラハン族は頭が取れるはず。取れた首の所は別に出血するわけでもない。

 私の中で、点と点が繋がり、線となった気がする。

 聞き込みをしていたエルフにお礼を言い、デュラハン族の縄張りに、私は出向いた。


 デュラハン族の縄張りに入ると、みんな首の上に頭はのっていて、見た目は人族と変わらない。

 以前から人族とデュラハン族で交流をするという話は出ている。その際、人族が恐怖を感じないように、『首を外した状態で歩き回らない』という条件がついていた。

 早速、デュラハン族に聞き込みを行うと、有力な情報が得られた。


「あ~、消えた死体の話? それ、俺も聞いたことあるぜ。なんか一部のデュラハンで流行っているらしいな。俺も一昨日やってみたが、別に面白いとは思わなかったけどな」


 ん? 一昨日? それって、私が目撃した日じゃない?


「……ひょっとして、鈴蘭亭のそばの路地?」

「ん? ああ、そうだ。なんで知っているんだ?」

「私が第一目撃者だからだよ!!」


 その雄たけびの後、私は詳細を確認した。

 なんでも人の気配を感じたら、頭を外して死体のふりをして、人が目を離した隙に転移石で指定しておいた座標に消えるようにしていたらしい。だから突然死体が消えたように見えたのか……。

 私はそのデュラハンに、長々と説教をして疲れ果てた。

 こうして、『消える死体事件』は『下らない遊び』ということで、幕を閉じた。

 当然、デュラハン族の方でも調査を行い、その違反行為を行ったデュラハンは罰せられた。

読んで頂きありがとうございます。


『ギルド嬢シェリーの探偵日記』の2作目。

作者的にはこの作品は気に入ってますので、シリーズ化できたらいいなと思っています。

この作品まではすぐに思いついたのですが、これ以降はまだ特に思いついていません(汗)。

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