夢見がち
「ふう…冷たい…」
冷蔵庫から取り出したリモコンを、疲れた右目にあてる。
一晩以上冷やしたリモコンがひんやりと目を癒してくれる。
冷えたリモコンでつけたテレビから流れるのは、赤い毒キノコのような髪型の男性の謝罪会見。
毒舌コメンテーターとして引っ張りだこであったが、仕事で知り合った女性との不倫が暴露された。
既婚者でありながら女性へ送った甘えたメッセージ。妻を蔑ろにする様子や「守りたい女性…」などと発言し、それまでコメンテーターとして発言した痛烈な批判が大きなブーメランとして、毒キノコの頭に刺さっていた。
「馬鹿としか言えない…」
ベランダにはためくトランクスを見ながら、琴美は考えた。
「もし…自分の旦那様がこんなだったら…」
気持ち悪い。
その一言で終わりだ。
東京の大学に入学する事が決まり、初めて一人暮らしをする事になった琴美。
「琴美は可愛いから悪い虫がつかないか心配だべっちゃ。洗濯干すとき男物のパンツを干しておくといいってみのもんたが言ってたっぺよ。ほら、これ持ってけ」
今は亡き祖母の手には、亡き祖父のブリーフパンツ。
「……ばあちゃん、荷物が増えっからパンツは東京で買うから大丈夫だっぺ」
祖母を傷つけないよう細心の注意を払って断った。
「そろそろパンツ買い替えようかな…」
あれから10数年経つが、繰り返し洗われ干されて擦り切れた新品のパンツの虫除け効果が絶大過ぎる事に…まだ気づかない夢見がちな琴美であった。