止まない夜の喧噪
星核ハンター達のある一日のこと……
「銀狼、ホタル、ちょっといいかしら?」
黒のコートを着たカフカの両手には、やたらと大きな紙袋が存在感を放っている。
それも1つではなく、2つ3つと抱えており、彼女の細腕には多大な負担がかかっているだろう。
「えっと、カフカ……、一応聞くけどそれは……?」
「任務先のブティックで、ちょっとね。良いものが多かったから、奮発しちゃったの」
「あーっと、ごめん。私そういえば星と一緒にゲームの予定があったんだよね、じゃあちょっと外すね」
「そういうと思って、さっき星に連絡を入れて置いたわ。今日は一日がかりで列車の大掃除だと言っていたから、何かする暇も無いそうよ?」
猫のように唸る銀狼を横目に、ホタルが再度カフカへ問う。
「あはは、ドンマイだね銀狼……。それでカフカ、もう一回聞くけどその袋は何かな?ブティックってことは服だよね?」
「ニブいね、サミュエルさん。カフカがこんなことするってことは、この後の展開なんて決まってるでしょ」
「当たりよ銀狼。あなたたちの分もあるから、ね?」
「「はい……」」
なお、刃は別の任務に行っている。
「なにか、悪寒が……?」
------------------------------
突如始まったカフカ発案の着せ替えに動揺を隠せない二人。
「お、これなんていいんじゃないかな。ほらホタル」
「あ、あたし!?無理無理、こんな布が少ないのなんて着れないよ!」
「そう言わずに、これ着たら星も喜ぶよ。兎さんの衣装が好きってこの前ゲームした時に言ってた」
「また適当言って!星がそんなこと言うわけないでしょ!」
「ちっ、バレたか」
(心が綺麗な人にだけ見えるバニーホタル)
「見て見て、こんなのはどうかな?」
「えー、私は可愛いのを抱きしめたいのであって、別に自分が可愛いのになる趣味はないんだよね……」
「せっかくモコモコでかわいいのに……」
(心が綺麗な人にだけ見えるモコモコ猫パジャマ銀狼)
「二人とも、これはどうかしら?」
「なにこれ、ブレザー?」
「えっと、セーラー?」
「この前星とチャットした時に、大学に行っているって話を聞いたの。二人もそれを着て会いに行ってみたら?」
「私あんまり興味ないんだけど、大学って制服がいる場所なの?」
「えへへ、星と学園ピノコニーかぁ……」
「「(学園ピノコニー……?)」」
(心が綺麗な人にだけ見えるブレザー銀狼とセーラーホタル)
「一通り見たかしらね、なにか気になるものはあった?」
「先に質問なんだけどさ、これ着たからって何になるの?」
「写真を撮ろうにもカメラが無いけど、どうするの?」
「あら、カメラはあったはずじゃない?」
「この前あたしが壊しちゃって……」
「まぁいいわ。でもそうね、何になると言われても得に何もないのよね……」
「そんなことだろうとは思ってたけど」
「あ、そういえば星のとこにカメラを持った子がいたよね。その子にカメラを借りるのはどうかな?」
「そうね……いえ、それよりいいことを思いついたわ。」
「あ、私でもわかる。このカフカはろくでもないこと考えてるときのカフカ」
「あたしには後ろに巣を作る蜘蛛が見えるよ……」
「思いついたいいことは少し後回しにして……、どうせなら刃ちゃんにも着せ替えさせてからね」
「なにこの……なに?」
「ふわふわのカチューシャとエプロン?」
「ただいま戻った。む、何をしている?」
「あら刃ちゃん、おかえりなさい。私の任務先で少しね」
「いやいい、大体わかった。では俺は疲れているので眠るとする、じゃあな」
「聞いて、ちょっとこれ着られるかしら?」
「くっ、殺せ……!」
「いやあんた死なないじゃん」
「刃、少しだけおとなしくしててね……」
(心が綺麗な人にだけ見える目が死んだ刃ちゃんのメイド姿)
(笑い転げる銀郎、笑いをこらえるホタル、満足気なカフカ)
------------------------------
後日、星穹列車に荷物が届いた。
差出人にはカフカと書かれており、開ける前からひしひしと嫌な予感が伝わってくる。
「うぇー、カフカからの荷物なんて絶対にろくでもないモノじゃん!ちょっとアンタ開けてみてよ!」
「この前チャットで『任務先で手に入れたから、おすそ分けするわね』って言ってたけど、何かは聞いてなかったんだよね」
「そこんとこ聞いとかなきゃダメじゃん!」
「しかし、音がしたり匂いがしたりということは無いな。恐らく安全ではあるだろう」
「そんなこと言うなら丹恒が開けてよ!」
「そーだそーだ!丹恒が開けろー!」
「む、そういうのは星の担当だろう。ただでさえこの前当番を変わったんだ、俺への借りを返す時だと思ってくれ」
「あらあんたたち、なにしてるの?」
「姫子!これ、カフカからなんだけどなにか知ってる?」
「なになに……、あら、上等な服じゃない。カフカったら何考えてるのかしら……」
「服?なんで服なんか送ってきたの?」
「ちょっとまって頂戴、下になにかメモ書きがあるわね……『着たらカメラの子に写真を撮らせて、私に送って頂戴ね』ですって」
「ウチぃ!?まぁ写真は撮るけど、カフカに送るのは嫌だね!」
「なの、それなら私に送ってくれる?」
「全然いいよ!っていうか撮った写真はグループに上げるし!」
「私からカフカに送るから」
「むきー!」
その後、もこもこなの、バニー星、セーラー姫子を撮るハメになった丹恒は思わず一言。
「なんで俺がこんなことを……」
------------------------------
後日、送られてきた写真を見ながら上機嫌のカフカがあったとか。
メイド服は使用済み()なので荷物に入ってません