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5話 発想と暴走

 好きな人がいるのにも関わらず、バレンタインにチョコレートを渡せない。


 それは、女の子からすればかなり辛いことだと思う。


 いや、女の子だからとかは関係ないか。


 冷静に、世間一般として男子も好きな人へチョコレートを渡す風習があったとして、自分が幸野さんたちと同じ境遇であったとしたならば、結構落ち込むんじゃなかろうか。


 それこそ三木川先生に相談する、みたいな形で……。


「……っていうことなんですけど、やっぱり可哀想で。どうにか三人がチョコレートを渡せるくらいの段階まで持っていけないもんですかね?」


 昼休み。保健室にて。


 俺は、昨日抱いた思いをさっそく三木川先生にぶつけたのたが、


「無理に決まってるだろ。奈束、お前昨日みっちりあいつらとやり取りして感じなかったのか? 『あっ、こりゃあ男と付き合うのなんて無理だわ』って」


 普通に一蹴されてしまった。


 机に体を預けてぐてーっとし、かっぴゃえびせんをボリボリ食べている。


 口には出せないけど、心の奥底でつい呟いてしまった。


 先生も男性とお付き合いするのとか無理そうですよね、と。


「どうした、いきなり無言で私のことをジロジロ見つめて。ダメだぞ? いくら私が大人の色気あふれる保健医だからって、欲情なんかしちゃあ」


「そんなのするわけないでしょうが……。もっと別のこと考えてたんですよ」


「別のことか。ふむ。先生の裸でも想像してたか? ふふん、えっち♡」


「はっ……w」


 思わず哀れみを込めて鼻で笑ってしまった。


 三木川先生は「お前今絶対私のことバカにしただろ!?」とか言ってくるけど、無視してため息をついた。


 こんなしょうもないやり取りをしてる場合じゃないんだ。


「先生、もっと真面目に、前向きに考えてください。トンチキな会話してる場合じゃないんですよ」


「お前の言ってることの方がトンチキだわ! あいつらが平岡たちにバレンタインチョコを渡せるかって、そんなの無理に決まってるだろう? 同じ男としてわからないか? ああいうブラッド展開も上等なモンスターたちに追われる者の恐怖心が」


「……いや、まあ、正直わからなくはないですけど……。ていうか、モンスターて……」


 ひどい言い草だ。


 ただ、三木川先生の言うことは間違いではない。


 俺の頭の中では、昨日ファミレスで見た幸野さんたちの悲しそうな姿が何度もフラッシュバックしてくるけど、平岡君たちのことを考えても、彼らの思いだってすごくわかる。


 もしも自分が茉莉野さんとか安推さんに追われることになれば、死ぬ気で逃げると思う。


 だって、カッターナイフ持って「私と一緒に死んで永遠になろ!?」とか言ってくるんだもの。


 怖すぎて漏らしそう。


「わかったらお前は余計なことを考えず、早くあいつら三人が平岡たちのことをすっぱり諦められるような作戦を考えてやれ。長引くと余計上手いこといかなくなるぞ?」


「……ったく。簡単に言ってくれますね。匙投げたくせに」


「何を言ってる。これはお前のポテンシャルを見込んでの仕事だ。私みたいに立派なメンタルトレーナーになるんだろう? もっと精進しろ、少年」


 いや、誰もメンタルトレーナーになりたいとかは言ったことないんだが……。


 ていうか、あんたも保健医でしょうが。いつメンタルトレーナーになったんだ。


「わかりましたよ。言われた通り、余計なことは考えず、幸野さんたちが平岡君たちを諦められるような作戦考えます。先生を頼った俺がバカでした」


「何だ何だ。拗ねたようなこと言って」


「だってそうじゃないですか。俺が相談してるのに、適当なことばかり言って匙投げっぱなしなんですもん。拗ねもしますよ」


 言いながら、俺はため息をついてやった。


 三木川先生は、座っていた椅子の上で足を組み直し、俺の方をちゃんと向いてくる。


「仕方ないな。だったら、そのご所望しているアドバイスとやらをくれてやろう。よく聞け」


「ヤンデレの女の子から上手に逃げる方法とかならいらないですよ?」


「あいつらから逃げたら私が許さんよ。違うから、ちゃんと聞け。ほら」


 言われるがままに俺はその場で姿勢を正し、聞く体勢になる。


 三木川先生はおっさんみたいな咳払いをした後に、こう切り出してきた。


「色々とな、誰かの助けになろうとすると、どうしても視野が狭くなってしまう。それはどんなに人の相談に乗ってきた人間であれ、だ」


「……なんか話が抽象的じゃないですか?」


「人の話は黙って最後まで聞け。とにかく、視野が狭くなるんだ。わかるな? お前は今、そういう状況になってる」


「まあ、突然変わり種の三人を任せられたらね」


 三木川先生は他人事のように頷いていた。


 あなたのせいなんですよ、俺が今こうなってるの。


「そこで、だ。敢えて言わせてもらう。視野を広くして考えろ」


「……いや、視野を広くって、さっきからほんと三木川先生は簡単に言ってくれますけど、それができれば苦労しませんよ」


「バレンタイン、幸野たちは平岡たちにチョコレートを渡したい。それを上手いこと逆手に取るんだ」


「平岡君たちを諦めるための作戦として?」


 俺が問いかけると、三木川先生は頷く。


 ハッキリ言って訳がわからない。


 好きだからチョコを渡すんだし、それを好きな人を諦めるために利用しろって、矛盾しまくってる。


 視野を広くしろって言ったって、そんなの絶対……、


「……いや、待て」


 ピンときた。


 ちょっと上手いこと試せるかもしれない案が浮かんだような感じ。


 だけど、そんな折だった。




「奈束様、大変です! 久羽ちゃんが! 久羽ちゃんがっ!」




 すごい勢いで保健室の扉を開けて、安推さんが登場。




「並河君を捕まえて、遂に襲おうとしています!」




 そして、とんでもない報告をしてくれるのだった。

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