◇65.伝令ゴーレムでお呼び出し
驚愕している間に小鳥の口のキュインキュイン音が激しくなり、さらに『伝令任務、遂行フェーズ2に移行します』という無機質な音声まで流れ出した。
『魔動砲による障害物の排除、準備』
「ベ、ベルドラド! なんかヤバい感じの攻撃が始まりそうなんですが!」
「うん……いい夢見れそう……」
「寝ないで! 起きて! 起きてください!」
「どんな厳しいやつがいい……?」
「掟ください言ってる場合か、なんで厳しい掟一択なんだ、いや掟はどうでもいい、こら起きろ!」
『魔動砲の発射まで、3、2』
「んー? ああ、博士の伝令ゴーレムか」
ベルドラドは億劫そうに身を起こし、かと思うと人ならざる速さで窓辺に到達(余波の風圧で後方の私が煽られるほどの速度)、小鳥が『1』とカウントすると同時に窓を開けた。小鳥の口の発光が止む。
「全く、博士は。危うく部屋が消し飛ぶところだった。伝令ゴーレムに魔動砲の機能を付けるなとテイジーに怒られてたのに、懲りないなあ」
ベルドラドは部屋消し飛び案件を口にしているとは思えない呑気な口調で言い、とんだ危険物らしい小鳥を掴み、欠伸混じりに戻ってきた。
灰色だなあと思っていた小鳥は、なんと石でできていた。お腹には「通話」というボタンが付いている。
「もしもし、博士? 俺は今まさに至高の聖地で安らかな眠りにつくところだから、そっとしておいて欲しいんだけど」
ベルドラドが通話ボタンを押してアホなことを言うと、石の小鳥の口から『おっと、それはすまなかったね!』と、アイザック博士の声が響いてきた。どうやらこの小鳥、事務室にある通話用の魔道具と同じ機能があるらしい。
『ちょっとベルドラドくんに頼みたいことがあってね! 実験場に来て欲しいのだけれど、いいかなあ?』
「えー。今すごく忙しいから無理」
『そっかー。残念だなー。このあいだ頼まれた、高画質かつ駆動音がしない撮影魔道具、完成したんだけどなー。リシェルくんを起こさずに寝顔の撮影がしたいという君の要望に応えた珠玉の』
「ベルドラド、寝顔の撮影って何ですか」
「は、博士! 俺が博士の頼みを断るわけないだろ、今すぐ行くから、通話切るぞ!」
「アイザック博士、寝顔の撮影って何ですか」
『あ、リシェルくんもいたのかい! やあやあ! 寝顔の撮影と言うのはねー、先月にベルド』
「はい通話終了!」
通話を強制終了するや小鳥を窓の外へぶん投げたベルドラドは、胡散臭いくらい爽やかな笑顔を私に向けた。
「すまないリシェル、博士に呼び出しを受けてしまった。ちょっと行ってくる」
そして窓枠に足をかけ、飛び立とうとする。ここで逃亡を許すと追及が有耶無耶になってしまうので、すかさず彼にしがみついた。
「私もついて行きます」
「えっ」
「抱っこ!」
「あっ、はい」
私が滅多にすることのない抱っこ要求に、ベルドラドは呆けた顔で従順な返事をし、そそくさとお姫様抱っこをした。
「では、博士のもとへ行きましょう。安全飛行でお願いします」
「はい」
「道中でたっぷりお話をしましょうね。撮影魔道具の件について」
「……はい」
ベルドラドは戦々恐々と頷いた。
「人の! 寝顔を! 盗撮するな!」
「盗撮してない! まだ盗撮してない! 未遂だ!」
私たちは空中で言い争っていた。
お姫様抱っこ状態の私に角を掴まれたベルドラドは、ふらふらと蛇行しながらも懸命に飛行を維持し、必死にこちらを宥めようとする。
「このあいだリシェルが涎を垂らして昼寝している姿があまりに良かったから永久保存しておこうと思って撮影魔道具を起動したら音がうるさくてリシェルが目覚めかけたから撮影は断念したんだ!」
「人が! 涎を垂らしてる顔を! 永久保存するな!」
「だから未遂だって! 無断撮影が駄目なら許可取るから! というわけで爆睡涎垂らリシェルの撮影許可くれる?」
「なんで許可くれると思った! 誰が許可するか! そしてリシェルの多様性を追加するな!」
「爆睡涎垂らリシェルはな、その妙に幸せそうな寝顔はもちろん、芸術的な寝相も素晴らしいから、引きと寄りの両方を撮影すべきだと」
「分かりました私たち家庭内別居しましょう」
「嘘です! 引きでも寄りでも撮影しません! だから引かないでくれ寄らせてくれ!」
わあわあと騒ぎながら実験場に降り立つ私たちを、アイザック博士が「やあ!」と朗らかに出迎えた。
「こんにちは、アイザック博士」
「おや、リシェルくんも一緒に来たのだね! いつでも夫婦一緒だね、仲良しだね!」
「そうだ、俺たちは超仲良し夫婦なんだ。家庭内別居の危機など一度も訪れたことがない」
ベルドラドはさっき訪れたてほやほやの危機を無かったことにしつつアイザック博士に胸を張って答え、抱えていた私を丁寧に地面に下ろした。
「で、博士。頼みごとって何だ?」
「あ、もうひとり呼んでいるから、ちょっと待ってね……ああ、来た来た」
ふいに晴れ空が翳ったので上を見ると、真紅の竜がこちらに下降してくるところだった。
今年の更新はこれで最後です。
だって来週の金曜は、もう来年……一年が早い……!
今年は本作が書籍化されるという奇跡が起きた、大変に感慨深い年でございました。
応援してくださった皆様に感謝申し上げます!
来年もよろしくね! よいお年を!
次話、あなたの心のツンデレ一等星・紅竜ミア様のご登場です!




