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初夜のベッドに花を撒く係、魔族の偽装花嫁になる  作者: 棚本いこま
第二部 楽しい魔王一家

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59/61

◇59.重要そうな話題が重要に扱われない



「や、やっと平和になった……」


 夕方になったら一緒に足湯に入る約束をすることでベルドラドと平和的合意を結び(「夕焼けを見ながらの足湯デートなんて最高にロマンチックね」というビオレチアさんの一言が効いた)、事態は収拾、私はようやく靴下と靴を履くことができた。


「そういやビオ姉、予定より早く旅行が終わったんだな?」


「あらもう、ベルちゃんのせいなんだから。あなたが結婚したって噂を聞いて、飛んで帰ってきたのよ? 先に『アネキタク。スグカエル』って手紙も出したのだけれど、全速力で飛んだから順番が前後しちゃったかも」


 ふたりのやりとりを聞いて、ケルベロスのパンツ袋の下に隠れていたお洒落な封筒のことを思い返した。あれは帰宅を知らせる手紙だったのか。


「知らない間に花嫁さんを捕まえていたなんて、お姉ちゃんびっくりよ」


「だってビオ姉たちの旅行、長いんだもん。待てない」


「でもまあ、リシェルちゃんがリシェルちゃんだったから安心したわ。可愛い花嫁さんね!」


「そうだろう。毎分毎秒惚れ直している毎日だ」


 ベルドラドは身内相手にも惚気を隠さないスタイルらしい。そして惚気を聞かされたビオレチアさんは「まあまあまあ!」と大はしゃぎである。魔王一家は恋愛脳なのだろうか。


「そうだ、バル兄は? 一緒に帰ってきたんだろ?」


 全員揃って懐からすっ……と恋愛小説を出す魔王一家を思い描いていたら、ちょうどまだ見ぬ一員・お兄さんの話題が出た。そうだった、ベルドラドの話では、お兄さんとお姉さんは一緒に旅行をしているとのことだけれど。


 ベルドラドの問いに、ビオレチアさんは「あら?」と首を傾げた。


「わたくしはてっきり、兄さんの方が先に帰っていると思っていたのだけれど」


「え? どういうことだ?」


「一週間くらい前かしら。東方大陸で一緒にカンフウの体験入門をしていたんだけど、『ベルに魔界サボテンの水遣り頼むのを忘れてた』って言って、兄さんだけ先に帰ったのよ。転移魔法を使ったから、ちゃんと魔界には着いているはずなんだけれど」


「えー。魔界サボテンの世話とか全然してないから、たぶん枯れてると思う」


「まだ帰宅していないとなると、そうね、兄さんのことだから、自信満々に近道を使って迷子になった可能性が高いわね。いくら魔界が広いからって、しょっちゅう迷子になるのも困りものだわ……。ひとりでウロウロして、反魔王派と面倒ごとを起こしていなければいいのだけれど」


「えー。俺、魔王の継承権ずっと持っとくの嫌なんだけど」


「うーん。でも兄さんだし、まあいっか! そのうち帰って来るわよね」


「そうだな。バル兄だし」


 さらりと「反魔王派」やら「魔王の継承権」やら、初耳の重要そうな案件が聞こえてきてハラハラしたが、当の本人たちはごく軽い雰囲気であり、お兄さん未帰宅の件は「まあいっか!」で片付いたらしい。迷子になることを当然とされ、特に心配もされない兄とはいかに。


「さて、わたくしはお父様のところへ行ってくるわね。ただいまを言って、それから旅行のお土産を渡さなくっちゃ。あ、もちろんベルちゃんの分もあるからね。カンフウの服なの、部屋着に可愛いでしょ。ベルちゃんったら部屋着に芋ジャージばかり着るんだもの、これで脱・芋ジャージね!」


「最近は部屋着に芋ジャージ着てませんー。リシェルを迎えてからは毎日ちゃんとした服着てますー。なあリシェル?」


「昨日のベルドラドの芋ジャージ姿、私はけっこう好きでしたよ」


「俺は今日から毎日芋ジャージを着る」


「あらまあベルちゃん、いつの間にそんな凛々しい顔ができるようになったの!」


 出発しようとしていたのに自分で始めたお土産の話に気を取られつつあったビオレチアさんは、「あらやだいけない、早くお父様のとこに行かなくっちゃ」と気を取り直し、楚々とした細腕ながら、棺桶のように大きな旅行鞄をひょいと片手に提げた。


「ベルちゃん、リシェルちゃん、またあとでねー」


「あっ、はい、ビオレチアさん」


「ビオ姉いってらっしゃーい」


 そして空いている手をにこやかに振って、魔王城の最上階から飛び去って行った。

 嵐のような邂逅が終わり、魔王城の最上階に静寂が戻る。


 意図せず対面することになった、ベルドラドの姉、ビオレチアさん。


 おっとりしていてお喋り好きで色気が凄まじくてどこか抜けていて姉心が暴走しがちなビオレチアさんとの出会いは、寛ぎの空間である足湯コーナーでの出来事とは思えないくらい、色々と動悸が慌ただしくなるものだったけれど、総合的に残った印象は。


「ベルドラドのお姉さんは、素敵なお姉さんですね」


 私の言葉に、ベルドラドは「そうだろう」と胸を張った。




『初夜のベッドに花を撒く係(略)』の連載を見守ってくださっている皆さまへ。


 なんと本作の書籍版が『次にくるライトノベル大賞2025』(通称つぎラノ)にノミネートされました……!


 作者は嬉しくて白目剥いてます。

 ひとえに応援してくださった皆さまのおかげです。

 ありがとうございます五体投地!


 ノミネート作品の中からさらに、つぎラノ公式サイトでの読者投票で大賞が決まるみたいです。今日から投票が始まるので、「初夜ベッド推してやんよ」な方はぜひ参加していただけると……あなたの背後でケルベロスの生霊が喜びのサンバ踊ります……。


 以上、感謝の雄叫び&ご報告でした。


 それでは引き続き連載をお楽しみください。

 またキャラが増えるよ! 猫々しいよ!


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『初夜のベッドに花を撒く係~』
書籍版の情報は
角川ビーンズ文庫公式サイトで!

短編版の読み切り コミカライズもぜひ!
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― 新着の感想 ―
お兄ちゃんは方向音痴?それで大丈夫なのか魔界王家w 新婚夫婦の部屋着がお揃いの芋ジャージに…
さっそく投票しました。結果楽しみにしています。
魔界サボテンはサボテンなのにそんなに繊細な植物なのか。 それともサボテンが枯れる程、長い期間を留守にしているのだろうか? リシェルの耳に入る重要案件がヤバ過ぎる。 さあ巻き込むぜ、巻き込むよ、と言わ…
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