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6、とあるケーキ屋の新しいスタッフの話


 その場で合格を告げる理人(りひと)に対して、()()は戸惑いの表情を浮かべた。


「この場で決めてしまっていいんですか?」


 颯来がそう尋ねると、理人は迷う様子もなく、首を縦に振った。


「もちろんです。採用するって自分の中で決めたのに、わざわざ別日に伝える必要もないですから。契約書をもってくるので、ちょっと待っててください。あなたは今決める必要はありません。契約書を持ち帰って考えてから、本当に働くかを決めてくれたらいいですから」


 理人がそう言うと、颯来はなるほど、と頷いた。颯来は時間をかけてどうしようかと悩む性格ではあるが、ここのケーキ屋の店主は、素早く決める性格らしい。それでも、他の人がみんな自分と同じように素早く決めることができると決めつけず、時間をくれ、選択肢を与えてくれるのは、店主の性格の良さがにじみ出ている気がした。


「ありがとうございました」


 理人にお礼を述べて、颯来は店を出た。彼女の心の中ではこの店で働きたいという方に気持ちが傾いているが、それでも時間をおいて考える時間が欲しかった。重要なものである契約書が入って、心なしか重く感じる鞄をしっかりと肩にかけ直して、颯来は家へと向かう。



「せっかく白属性なんだから、それを使って働いたら?」


 この言葉は颯来が何度も言われた言葉だ。それは確かにそうだと思う。他の人には持っていない、珍しい才能。自分がこれを手にしたとき、中学に入った後くらいだった。生まれつきのものではない。魔法を手にしたのも急だったのだから、失うときも一瞬だろう。いつ失うか分からない。その可能性がある中で、魔法を使うような職に就くのは不安に感じた。


 何より、自分で苦労もせずに手に入れたものを商売として使うのはどうなのだろう、というのが颯来の考えだった。便利な道具として使うのはもちろんいいと思うし、他の人が魔法を使うことでお金を得ていることを咎める気持ちは全くない。しかし、自分は特に珍しい白属性であり、もしそれを使って商売をしたら他の人の何倍も儲かるだろう。颯来には、それがズルをしているように感じられた。仮に魔法を必要な人に使うとしたら、無償で使いたい。


 そのような「せっかくの白属性なのに」という話は全く触れず生クリームを操れるかと聞いてきた、理人のことを思い出して、思わずクスリ、と笑いがこぼれた。


 白属性をメインにした仕事をしたくないという感情の有無に関わらず、颯来は元からケーキ屋という仕事に憧れがあった。大学時代、ゼミの時に神崎真衣先生がケーキをもってきてくれたことがあった。神崎先生の友人のケーキ屋さんをしようとしている人が作ったケーキの余り物らしい。


 食べてびっくりした。コッテリしすぎていないクリームに、ふんわりとしたケーキの生地。こんなにおいしいケーキは食べたことがない。まるで魔法だ、と思った。否、魔法を使って作ったよりもきっとおいしい。人が時間をかけて、手間をかけて、作ったからこそ、このおいしさがあるのだと思った。


 このケーキが颯来の人生の分岐点だったのかもしれない。このケーキに魅せられて、颯来はケーキ屋さんで働きたいと思ったのだ。

 


 颯来の人生を変えたケーキを作ったのが、颯来が働き出したケーキ屋の店主である三木理人さんであるということをすぐに知ることとなる。彼のケーキを一口食べたらすぐに分かった。



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