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4、とある国のトップの話

 この部屋の電話は鳴り止まない。


「この話はあの人のところに持っていって」

「こちらはどうしますか?」

「それはこっちで……」


 魔法がこの国で生まれた日、一番苦労しているのはこの人だろう。この女性の名前は星千沙(ほしちさ)()という。この国で初めての女性の総理大臣だ。


 彼女がこの地位に登りつめるのは簡単ではなかった。「女性だから」というような偏見や差別は少なくなってきたものの、簡単に消えることはなく、千沙都は女性だからと馬鹿にされないように、言動の一つにも最新の注意を払ってきた。


 彼女は上手く職務を果たしていた。しかし、ここに来て想定外の事態だ。


「本当に、なんで今来たの……」


 思わず千沙都がそうつぶやくと、部下の今井司(いまいつかさ)が苦笑しながら口を開いた。


「こればかりは仕方がないですよ。自然現象のようなものですから」

「それはそうだけど……」


 大雨や台風のような自然災害も起こって欲しくはないが、ある程度は対策を練ってある。しかし、魔法というものを人類が急に使えるようになるなんて想像もしていなかった。


「電話が来るたびに、もしかして、魔法による事件や事故が起きたんじゃないかって、緊張するのよね……」


 魔法で人を傷つけてしまったとき、罪はどれくらいか。他の場合と同じ罪でいいのか。魔法を使った目に見えない方法のときは?精神に干渉するような魔法があったとしたら?


「考えることは山積みね」


 そう言って、千沙都も何回目か分からないため息をつく。


「でも、星さんって、魔法が好きですよね?」


 そう司に言われ、千沙都は言葉を詰まらせた。

 全く否定できない。千沙都は魔法が出てくる物語が好きだった。


「言ったことあった?」

「以前、休憩時間に読んでいる本を見たら、すぐ分かりました」


 千沙都は本を読むときは、ブックカバーを掛けようと心に決めた。



「確かに魔法に興味はあるわ。でも、私の属性は黄色なのよね。あんまり実用性がなさそう」


 属性が色で分類されるというのが分かってきた話だ。赤属性が火を使えて、青属性は水を使えるというのが事例としては連絡がきている。


「確かに、黄色属性が何をできるかいまいち分かっていないですよね」


 司はそう言って頷いた。



「精神に干渉するような属性があったとしたら、何色だと思う?」


 千沙都がそう尋ねると、司は少し考えてから答えた。


「何となくのイメージですが、紫色、もしくは黒色、白色とかじゃないですか? それか、透明という可能性も考えられます」


 この答えに千沙都も納得している。


「今のところ精神に干渉する魔法が使えたという情報はあがってきてはいないけど、あってもおかしくはないのが悩ましいところ」


 もし、精神干渉できる人が、別の人に強盗をしてくるように洗脳して、強盗をしたとしたら、責任は誰にいくのだろうか。魔法による洗脳だと証明は可能なのだろうか。


「起こってもいないことばかり考えていても仕方ないわね。今できることから決めていきましょう。」



 千沙都は学校を一斉休校するように指示をだした。学校で子どもたちが喧嘩をして、事故が起こったら対応が追いつかない。社会人にも、できるだけ家の中にいるように求めた。今の時代はオンラインでできることが増えているため、今週中は極力家から出ないようにと国民には伝えている。


「一週間で対応が追いつくかしら……」

「でも、それ以上家にいるように言っても、国民がそうしてくれるかは分かりませんよ」

「そうね。一週間である程度仕上げないと」


 今週は家に帰れない覚悟でいかないといけないなと思いながら、千沙都はメールの確認のためにパソコンを開いた。


「いまのところ暴動とかは起こっていないようね」


 人々は新たな力を手にしたのだ。今までの民主主義体制とは異なり、力による統治を望む人が出てくるのではないかというのも懸念材料だった。人のトップに立つのが相応しいと人々が感じるくらい強い魔法、もしくは統治に優れた魔法を持つ人がいたら、民主主義体制が崩れかねないと考えていた。


「今のところ、そう言った話は入ってきていないですね。魔法が強いなどで国のトップになるように、と担ぎ上げられている人もいなさそうです」


 司もそのように言ったため、千沙都はホッとして、別の連絡を確認し始めた。


「魔法によって、職を失うかもしれない人はどうします?」

「魔法を使った産業に移ってもらうことも検討した方が良いかもしれないわね。魔法と現在あるものを上手く使い分けていく、もしくは融合されるような流れになると、職を失わずにすむとは思うけど、対策だけ考えておきましょう」


 対応を考えなくてはならないことはたくさんあるため、終わりは全く見えない。


「魔法の研究に対する支援も必要なはず。研究したいという人がいたら、研究を支援しましょう」

「大学に学部を作るというようにしますか?」

「そうね。それはどうするかをもっと詰める必要がありそうだから、次の会議で議題にあげましょう」



 彼女の対応は後の未来では高い評価をされることとなるが、それはまだ本人の知るところではなかった。


 後に魔法がその色に関することなら様々なものを操れることが研究で明らかになり、黄色属性にも多くの可能性があることを知った千沙都が自分の任期が終了後に研究者になろうと政治家を辞めるということももちろんまだ知らない。


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