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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第22話

 凉樹の自宅へ着いたとき、懐かしい匂いがした。帰ってきた、なんてことを思うと同時に、見覚えのない魔法のランプみたいな、小物が置かれているのが目に入る。天井に付けられた照明に照らされて、金が眩しいぐらいに輝いている。


「凉樹、これ何?」


来客用のスリッパを出す凉樹に聞いた。顔を上げると同時に、俺が指差す先にある小物を見て、一瞬だけ眉を顰めた。


「仲良くさせてもらってる先輩から貰ったんだよ。外国のお土産だって」

「へぇー、お土産か」


お土産にしては珍しいと思った。こんなの、距離が近くないと送れないだろ、とも思った。そんなランプを嘗め回すように見ていたからか、凉樹は笑って「何か問題でもあるのか?」と言ってきた。俺は「何でもない」と気付いていないフリをする。下に隠されたタグに日本円の表記があることを。


「そ、そうか? ならいいけど」


彼はふっと視線を逸らす。あぁ、嘘つかれたな。


 俺はいつものボーダーのスリッパを履き、リビングに足を踏み入れた。そして、そのまま目先にあるラックに立てかけられた一冊の雑誌を手に取る。つい昨日発売されたばかりの雑誌。表紙には、決め顔のNATUraleza四人が写っていた。


「で、話って何だよ」

「それより、何か飲まないか? っていってもコーヒーか水しかないんだけど」

「凉樹も何か飲むのか?」

「俺はコーヒー飲むつもりだけど」

「じゃあ、俺もコーヒー頼むよ」

「分かった。すぐ準備するから」

「ありがとな」


 凉樹は咲佑に背中を向けて、コーヒーメーカーのセットをする。その間、咲佑は財布に入れておいた小さな袋を取り出す。その袋の中には、たまに飲む薬が入っている。


 コーヒーが出来上がるまでの間、凉樹は息をするのも忘れるぐらいの勢いで話しを続けた。咲佑は、見られない凉樹の姿を不自然に感じていたが、特にそれについて言及しないでいた。この期に及んで喧嘩したくなかったから。


しばらくして、コーヒーメーカのスイッチがオフになった。それにいち早く気付いた俺は、凉樹に声を掛けた。


「凉樹、コーヒーで来たみたいだけど」

「悪い、気付かなかった」


 椅子から腰を上げ、食器棚からカップを取り出す。そして、青いカップに熱々のコーヒーを注いでいく。その間、咲佑はポケットに手を忍ばせた。


「ありがとな」

「おう」

「あ、このカップ―」


このタイミングで、凉樹のスマホに着信があった。絶好のチャンスだ。そう思っていた矢先、凉樹は画面を伏せる形でテーブルの上に置いた。


「出なくていいのかよ」

「別に今じゃなくてもいい相手だし」

「ふーん」


凉樹は電話が鳴り止むのを待っているようだったが、俺からすれば鳴り続けて欲しかった。それは、自分に課した任務が遂行できないから。


「出てくれば? それだけ鳴らすってことは緊急の内容かもよ?」

「あぁ、そうだな。ごめん」

「おう」


 スマホ片手にリビングを出て行った凉樹は、扉の向こうで誰かと電話している。その間に、咲佑はポケットから薬を取り出し、湯気が立つコーヒーカップの中に落とす。溶けだしていく薬。まだ電話は終わりそうになかった。


リビングに戻ってきた凉樹は、吐息をもらす。


「電話誰からだったんだ?」

「まさっきぃ」

「おいっ、出なきゃいけない人じゃん」

「いいんだよ。俺がオフなこと知ってて電話かけてきたんだから」

「ふーん。まぁいいや」

「あーあ、せっかくのコーヒーがちょっと冷めたな」

「いいじゃんか別に。それに湯気まだ立ってるし」

「だな」


 咲佑は永遠に話し続ける凉樹のことを、聞く耳を立ててその話に興味を示している演技をする。が、胸に秘めた思いとしては、早く寝てくれないかな、というものだった。そして、その願いは三十分後に叶った。凉樹の目は徐々に閉じていく。これは彼が眠気に襲われている動かぬ証拠だ。


「咲佑、ごめん。三十分だけ寝てくる」

「分かった」

「服、その山から適当に取っていいから」

「助かるよ」


凉樹は眠気に耐える形でリビングの扉を開けて出て行った。その後、すぐに寝室の扉が閉まる音が聞こえ、一分もしないうちに室内は静寂の空間と化した。俺はそっと寝室の扉を開け、彼がうつ伏せになって眠っているのを確認し、再び静かに寝室を後にした。準備は万端だ。そろそろ仕上げにかからないとな。

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