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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第20話

 あんなに土砂降りだった雨も、一時間も経てば傘が無くてもいいぐらいの降り方になっていた。ドライヤーで乾かした服からは、温風に気持ちが乗った分の温もりが感じられる。


それなのに、隣を歩く彼の姿は普段よりもちっぽけで、何か隠しているような、そんな気がした。


「なあ」

「え、咲佑なんか言った?」

「なあ、って言ったけど、凉樹も何か言ったよね?」

「俺も、なあ、って」

「嘘だろ、被った」

「だな。え、この二音で被ることある?」

「面白いな」

「似てんのかな、俺らって」


凉樹は俺の顔を見てきた。愛想笑いを浮かべていた。


 ちゃんと耳には彼の声が届いているし、内容も理解している。似ていると言われて嬉しいはずなのに、何も言えなかった。従順な態度が取れなかった。


「で、凉樹は何言いたかったんだ?」

「俺さ、咲佑に言わなきゃいけないことがあるんだよ」

「それってさ、聞いて後悔する内容?」

「お前次第」

「そっか」


笑うしかない。俺次第って、何だよ。


「咲佑も俺に話があるんだろ?」

「あぁ、まあな」

「それはさ、咲佑が俺に話すことで幸せになれる内容?」

「あぁ、まあな」

「じゃあさ、先に言ってよ。俺のは後でも全然いいから」

「ホント? 後悔しない?」


彼は俺の目を見て頷いた。吹いた風に靡く彼の茶髪。甘い香りがした。


 凉樹の顔を、目を見れず、前だけを見ながら動画配信番組への出演が決まったことと、同性愛者の役のオーディションを受けることになった、という二つの話題を伝えた。凉樹は「おめでとう、よかったな」と言ってくれた。ただ、その発言は心からの、と言うよりは、上部だけで言っているような感じだった。


俺はいつもと様子が違う凉樹のことを不思議に思いながらも、会話が途切れるのが嫌で、番組の内容や過去に受けたオーディションの話を一方的に喋り続けたが、徐々に話に対する彼の相づちが合わなくなっていく。


ついには、そのことに耐えられなくなった。心配になり横を見ると、凉樹は歩いてはいるものの、心ここにあらずという様子で、倉皇としている。


「凉樹」

「ん?」

「様子が変だよ」

「そうか?」


彼は俺の発言に面食らったようだ。


「さっきから俺の話、全然聞いてないだろ」

「そうか?」


今度は俺の発言に心を掻き乱されたようだ。


「じゃあ、今さっき俺がなんて言ったか憶えてる?」


彼は頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟いた。「・・・、悪い」


「やっぱりな」


呆れたいわけじゃないけど、昔の自分を見ているような気がして、自然と笑えてくる。涼樹も隠し事はできないタイプなんだな。


「嘘だね。凉樹が俺に話したい内容って、隠し事のことなんだろ?」

「いや、その―」

「俺は、凉樹の話ならどんなことでも受け止める覚悟ができてる。だから、ちゃんと面と向かって話して欲しい」


 歩みを止める咲佑。高い位置から照りつける日差しによって、背中に汗が滲む。


「俺は・・・」


 前に歩き出す凉樹。風に弄ばれる髪の毛についた、小さな葉っぱ。


「俺は、大切な咲佑のことを裏切った、最低な男だ」


彼は、美しい瞳から一滴の雫を溢した。


 太陽に照らされた影は、前を歩く影を抱き竦めた。

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