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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第20話

 とりあえずという感じで歩き出したものの、雨上がりの湿気により、段々と蒸せてくる。咲佑の額には汗が滲んできていた。


「なあ」


同じ質感の音が、耳に届く。


「え、咲佑なんか言った?」


満面の笑みを浮かべる咲佑。声が重なりあったことを知った。


「なあ、って言ったけど、凉樹も何か言ったよね?」

「俺も、なあ、って」

「嘘だろ、被った」


咲佑は少年み溢れる驚き方を見せた。


「だな。え、この二音で被ることある?」

「面白いな」

「似てんのかな、俺らって」

「・・・」


この、たった三秒ほどの間。咲佑は何を思ったのだろうか。


「で、凉樹は何言いたかったんだ?」

「俺さ、咲佑に言わなきゃいけないことがあるんだよ」

「それってさ、聞いて後悔する内容?」

「お前次第」

「そっか」


これで咲佑が傷つくのなら、つまりは・・・、そういうことだ。


「咲佑も俺に話があるんだろ?」

「あぁ、まあな」

「それはさ、咲佑が俺に話すことで幸せになれる内容?」

「あぁ、まあな」

「じゃあさ、先に言ってよ。俺のは後でも全然いいから」

「ホント? 後悔しない?」


揶揄ってきた意地悪な咲佑の瞳を捉え、俺は大きく頷いた。


 咲佑は歩く方向だけを向きながら喋り出した。内容は、咲佑のような同性愛者にスポットを当てた動画配信番組のゲストとして呼ばれたということ、そして同性愛者の役のオーディションを受けることになった、というものだった。


そのことを聞いた俺は、内心ホッとした。咲佑に仕事という拠り所ができれば、きっと俺のことを忘れてくれるだろうし、咲佑との恋愛を断ち切って、奏さんとの恋愛に集中できるチャンスになるだろうから。


「おめでとう。良かったな」


この返事が合っているのか、俺には分からない。正直おめでとうと言えば終わりだと勝手に想像していたけど、話は終わらなかった。おおかた五年振りにドラマのオーディションを受けることになったためか、咲佑の話すスピードは衰えるどころか、どんどんと加速していき、次第に頷くタイミングも、相づちを打つタイミングも見失い、いつしか咲佑の話に耳を傾けるのも面倒になっていた。


「凉樹」

「ん?」

「様子が変だよ」

「そうか?」

「さっきから俺の話、全然聞いてないだろ」

「そうか?」

「じゃあ、今さっき俺がなんて言ったか憶えてる?」

「・・・、悪い」

「やっぱりな」


俺の顔を見て咲佑は、どこか呆れた様子で笑った。


「凉樹、何か隠してることあるだろ?」


確信めいた視線を送られる。やっぱり見抜かれていた。咲佑が俺に隠し事ができないのと同じように。


「隠し事?」

「凉樹ってさ、隠し事してるとき、いつも聞く耳を立ててないっていうか、上の空になりがちなんだよ」

「そんなことないだろ」


いや、そんなことある。俺は実際、何か考え事をしている最中、相手の話声は耳に届くものの、肝心な内容が脳に入ってこないことが多々ある。


「嘘だね。凉樹が俺に話したい内容って、隠し事のことなんだろ?」

「いや、その―」

「俺は、凉樹の話ならどんなことでも受け止める覚悟ができてる。だから、ちゃんと面と向かって話して欲しい」


 立ち止まる咲佑。


「俺は・・・」


 歩き出す凉樹。


「俺は、大切な咲佑のことを裏切った、最低な男だ」


太陽に照らされて浮かび上がる影は、歩く影を後ろから抱きしめた。

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