表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
57/69

第三章 第19話

 ドアが開いた先には、フライパンを見事に操る男性の姿があった。甲高いドアベルの音に応答するようにして、「営業は十七時からなんです」と言った後、その男性はこちらを見て「って、凉樹かよ」と呟いた。声は低かったが、嬉しそうな表情をしていた。


四年振りに見た凉樹の兄、広樹こうじさんは、ぱっと見じゃ全然分からないぐらいに変化していた。特に髪色と肌の色が。


「馬鹿が、雨に打たれたか」

「いいだろ、別に」

「んで、何の用?」


 凉樹は料理中の兄に、お構いなしという態度でペラペラと事情を話した。そして、店の奥にある一軒家へ案内された。自宅はレストランとはまた違って、ウッド調の壁紙が貼られていた。温かみのある色で統一された家具が並ぶリビングで、凉樹が浴室から出てくるのをただひたすら待ち続けた。幸せオーラを全面に感じながら。


俺がシャワーを浴び終わって出てきたときには、木製のダイニングテーブルの上にパスタが二種類置かれていた。ペペロンチーノとバジルソースのパスタ。好きなほうを選んで食べて、と広樹さん言われ、俺はバジルソースのパスタを選んだ。


「いただきます」


一口パスタを食べた瞬間に、俺の脳は覚醒した。もちもちとした細麺にバジルソースがよく絡み、口の中で相性抜群の旨味を生み出していく。こんなパスタを食べたのは、冗談抜きで、生まれて初めてのことだった。


 ご自宅には一時間ほど滞在させてもらった。帰る頃には広樹の家族は二階の寝室で寝ていたために、声をかけることはできなかった。


「兄貴、そろそろ帰る」

「そっか」

「パスタ、ご馳走様でした。美味しかったです」

「あー、いいよいいよ。今度はお店に来てよ。咲佑くんとまたゆっくり話したいからさ」

「ありがとうございます。また寄らせてもらいますね」

「分かった。待ってるから」


広樹さんのよく焼けた肌と白い歯で微笑みかけられ、俺は愛想よく笑っておいた。


「兄貴、今日の借りはちゃんと返すからさ、また来るよ」

「おう。次は金払って食べろよ」

「分かってる。あ、マオさんには後で連絡入れるから、そのこと伝えておいて」

「はいはい」

「じゃ、また」

「おう」


二人は手を軽く挙げ合って、別れを告げた。


「ありがとうございました。お邪魔しました」


一方の俺は、頭を二、三度下げてご自宅を後にした。


 雨を降らしていた雲の合間から顔を覗かせる太陽を背中に、歩き出した。凉樹が醸し出す負のオーラを感じながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ