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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第16話

 互いの趣味や業界の会話で予想以上に盛り上がり、そんなに長く待った気がしないうちに、店員によってオーダーした料理が運ばれてきた。初めて見るコンフィに、凉樹の目には星が光らせ、胸が高鳴っていく。


「お待たせしました」

「ありがとうございます」

「ごゆっくりお楽しみください」


真っ白な丸いお皿に乗せられた鴨肉。盛られた野菜の鮮やかな色によって映える焼き色に、見た目から伝わる皮のパリパリ感。俺は思わず生唾を飲み込む。一方の奏さんは目の前に置かれたテリーヌを見て感嘆の声を漏らした。


「奏さんが注文した料理も美味しそうですね」

「そうでしょ」

「あの、この料理名は」

「テリーヌって言うんだけど、これも初めて?」

「はい。あ、でも、テリーヌって名前は聞いたことあります。食べたことはもちろん無いですけど」

「良かったら一口食べる?」


奏さんは小首を傾げ、そしてテリーヌが盛られた皿をこちらに差し出す。


「奏さんが注文したんですから、奏さんが食べてください。俺のこと、ほんと全然気にしなくていいですから」


俺はやんわりと断ることしかできなかった。


「そう? じゃあ全部食べちゃお」

「あ、はい。そうしちゃってください」


戸惑いと動揺が隠せない。心の中で自分のことを嘲笑った。


「いただきます」

「いただきます」


 奏のフォームを見様見真似で、凉樹がフォークとナイフを手に取った瞬間、奏が声を掛ける。


「凉樹くんって、右利きだよね?」

「はい」

「じゃあ、フォークを左手、ナイフは右手ね」


そう指摘されて、視線を手元に移すと、フォークとナイフを左右逆に持つ両手が写った。どこまでも無知な自分が恥ずかしい。


「すいません」

「緊張してるんでしょ? もっとリラックスしていいのよ」

「はい」

「それからね、持ち方なんだけど―」


それからナプキンの正しい使い方とか、肉料理の食べ方を、奏さんは無知な俺に懇切丁寧に教えてくれた。そのときの柔らかな表情は、始めて見る一面だった。


「私が教えてあげられることはこれぐらいかな」

「ありがとうございます。勉強になりました」

「じゃあ、最後に教えてあげる」

「何ですか?」

「私が最初、石井くんに料理一口食べる? って聞いたでしょ?」

「はい」

「あれね、もし食べるって言ったら、石井くんをここから追い出すつもりだった」

「・・・え」


あまりの衝撃的な一言に、俺は言葉を失った。


「断って正解なのよ。料理のシェアや交換はマナー違反だからね」

「そう、だったんですか・・・。ってことは、俺を試したってことですか?」

「うん。私にお似合いかどうかのね」


淡いピンク色のチークが塗られた頬が緩む。俺は視線を逸らすために、料理に目を移す。盛られたレタスが若干しんなりとしている気がした。


「あ、ごめんごめん。しゃべり過ぎちゃったね。料理食べましょ」

「あ、はい。食べましょう」


 凉樹は奏が料理を一口食べるのを待ってから、教えてもらったように、鴨肉を繊維に沿ってナイフで小さく切り、フォークを使って口に運ぶ。見られているという緊張から手は少しだけ震えていた。が、口に入れた瞬間にカリっとした皮の食感の直後に、ほろほろとしたお肉本来の柔らかさ、そして旨味が口いっぱいに広がっていく。その美味しさに思わず陶酔してしまう。


「初めてのコンフィのお味はどう?」

「凄いです。鴨肉独特の匂いとかあるかと思ってたんですけど、それが全く無くて、しかも、お肉だけじゃなくてハーブの香りも程よくしますし。ソースとお肉の相性も良くて、ついつい食べる手が止まらないですね。とにかく美味しすぎます。最初に出会ったコンフィがこれって、俺幸せ者ですね」

「食リポできてるじゃない」

「え」

「自然な感じでいいんじゃない?」

「あれでいいんですか?」

「うん。最低限は伝わるよ。あとは、見た目のこととかを伝えてあげるといいかもね」

「なるほど・・・。ん? あの、奏さん。もしかしてまた俺のこと試しました?」

「試した? 何のこと?」


奏さんはナイフで一口大に切りながら、聞き返してきた。上品に、美しく。


「いや、恍けないでくださいよ。初めて食べる料理を食べさせて、俺がどんな食リポするか見たかったんじゃないですか?」

「石井くん、流石だね。そっか、バレちゃったかぁ」

「バレるもなにも・・・。でも、ありがとうございます」

「何が?」

「奏さんにアドバイスもらえたから、俺、これから食リポ頑張れそうです」

「そう? なら良かった」


 目の前で笑う奏を見て、凉樹の心は熱くなった。


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