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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第13話

 気まずくなった空気。机の上に置かれたメニュー表を眺めてみたり、水を飲んだりと落ち着きがない。目線も合わせられず黒目をキョロキョロとさせる。


俺が何か言わないと、場が持たない。まだ注文した分は運ばれてこなそうだし。でも何を話せば・・・。


「咲佑、今どんな感じだんだ?」


凉樹が苦し紛れに出したであろうこの発言。俺はどう捉えるべきなのか迷った。ソロになっての現状なのか、それとも事件のこととか怪我の経過のことなのか、将又あの時の行為に対してなのか。迷ってばかりでは駄目だ。それっぽい回答を・・・。


「傷はもうほとんど治ってる」

「そっか」

「・・・うん」


違ったみたいだ。でも、後戻りはできそうにない。


「事件の記憶は・・・、戻ったのか?」


疑問形で聞いてきた凉樹のことを揶揄いたくなって、演技の練習も兼ねて軽い嘘を言ってみる。


「いや、まだ・・・」

「そうか」


騙されたのか表情からは読み取れなかったが、明らかに声のトーンを下げた凉樹。本当はもう少し彼の反応を見て遊びたかったけど、俺は嘘をつき続けることは苦手。だから・・・。


「っていうのは嘘で」

「えっ? 嘘?」


目を丸くした凉樹。口まで大きく開いている。やっぱり俺の演技に踊らされたみたいだ。


「実は、既に記憶を取り戻してる」

「なんだぁ。心配させんなよ」


騙された自分が馬鹿だった、みたいな表情をする凉樹だったが、嬉しさは隠しきれていなかった。


「悪い悪い。ちょっと揶揄いたくなってさ」

「何だよ、それ」


さっきまでのお遊びの時間は終わり。今度は本当のことを伝えなければ。


「でも」

「でも何だよ」

「記憶が戻ったからか分かんないけど、まだ人とすれ違うのが怖いんだよな。すれ違いざまにやられたからさー。トラウマみたいになってんのおかしいよな。俺もう子供じゃないのに・・・」


 言ってみたのは良かったが、何となく自分のことが馬鹿馬鹿しく思えて、お洒落な照明をぼんやりと眺める。溢れそうになる涙を堪えるために。


そんな俺に、凉樹は言い切った。「咲佑はおかしくない」と。


「え」

「あんなことされたら誰だって怖くなる。大人とか子供とか関係ない」

「いやでも・・・」

「あのとき俺が一緒に居てやれたらよかったのに」


何を言ってるんだろ。いつもと様子が違うような気がする。


「それは、流石に無理だろ」

「事件に巻き込まれるのが咲佑じゃなくて、俺だったらよかったのに」


悲しみと怒りが混じる声色。


「凉樹・・・?」

「咲佑が誰かに傷つけられるなんて俺が耐えられねぇ」


やっぱり今日の凉樹は何かが違っている。


「凉樹・・・・・・?」

「いつでも咲佑のことを守れる盾になりたい。俺はお前と一緒に居たい。ずっと、ずっと」


いつにも増して凉樹のことがかっこよく見えた。輝いてるとか、お洒落とか、そういうのじゃなくて、決意が固まってたりとか、覚悟が漲っていたりとか、そういう感じで。


「どうやら俺はお前のことが好きみたいだ。俺は咲佑と付き合っている未来しか想像できない。他の誰かに取られたくない。奪われたくないんだよ」


告白されるってこんなに緊張するもんなの? 俺が好きと伝えたとき、こんな気持ちだったっけ? 凉樹の澄んだ瞳で見られるだけで、妙に恥ずかしくなる。


「俺も凉樹のことが好きだ。俺も凉樹と一緒に居たい。俺だけの凉樹でいてほしい」


あぁ、言ってしまった。もっとちゃんとした台詞を用意してたのに。


「咲佑、俺と付き合ってみないか?」


そう言われるだろうと思ってた。俺はやっぱり凉樹には敵わないや。もう、笑うことしかできないよ。


「いいよ」


 叶うはずのない恋。許されない恋。そんなことはない。未来を変えてやる。そんな思いで二人は強い握手を交わした。


「お待たせしました」


注文を取った店員が、小さな丸テーブルに注文したメニューを置く。カフェラテに浮かぶ氷が当たる音は、気持ちを爽やかに、心を晴れやかにしてくれる。ここに来る度に食べてきたプリン。値段も形も変わらないのに、いつ食べても味だけが違う。甘すぎたり、カラメル苦かったり。最初は作る人によって味が違うだけだと思っていたが、最近気づいた。それは店側の問題ではなくて、俺自身の心の状態が問題なのだと。


 凉樹は大きな口を開けてサンドウィッチに豪快に齧りつく。口元に付いたレタスの欠片。付いていることをジェスチャーで伝えると、彼は照れ笑いしながら「サンキュ」と言った。カッコいい一面だけじゃ、可愛い一面だけじゃ物足りない。凉樹のすべてが欲しい。

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