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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第13話

 凉樹は咲佑と目が合わせられなくなっていた。合わせようにも心臓が跳ね上がってしまう。どんな時だって咲佑と目が合わせられないことなんて無かったのに。でも、話さなければもっと苦しい。心臓を落ち着かせるために、俺は口を開いた。


「咲佑、今どんな感じなんだ?」


つい一週間ほど前の行為に対してどう思ったのかを聞こうとしただけなのに、ストレートに質問できず、色んな意味を含める感じで投げかけてしまった。こういうときに限ってちゃんと伝えられない。リーダーとして失格だと思った。


「傷はもうほとんど治ってる」

「そっか」

「・・・うん」


咲佑は俺と視線を合わせないように俯いた。


「事件の記憶は・・・、戻ったのか?」


俺の声は微かに震えていた。慰めの気持ちが、咲佑の前では堂々としていたいという俺のプライドを邪魔する。


「いや、まだ・・・」

「そうか」


かける言葉を失った。どう言ってあげればいいのか・・・。


「っていうのは嘘で」


そう聞いた途端、俺の口は大きく開いた。


「えっ? 嘘?」

「実は、既に記憶を取り戻してる」

「なんだぁ。心配させんなよ」

「悪い悪い。ちょっと揶揄いたくなってさ」

「何だよ、それ」


 少年のような笑顔を見せる咲佑。揶揄われているはずなのに、嬉しかった。本当の咲佑が戻ってきたような気がしたから。その頬には、かさぶたになった小さな傷痕が残されていた。


「でも」


咲佑は落胆する様子の声を発した。


「でも何だよ」

「記憶が戻ったからか分かんないけど、まだ人とすれ違うのが怖いんだよな。すれ違いざまにやられたからさー。トラウマみたいになってんのおかしいよな。俺もう子供じゃないのに・・・」


 今度は天を仰ぎだした咲佑。自分に呆れているみたいだった。


「咲佑はおかしくない」

「え」

「あんなことされたら誰だって怖くなる。大人とか子供とか関係ない」


     ・・・あれ、何でこんな口調になってんだろ。


「いやでも・・・」

「あのとき俺が一緒にいてやれたらよかったのに」


     ・・・一緒にいてられたら、なんてよく言えたな。行動を共にするなんて、

     どう考えても至難な技なのに。


「それは流石に無理だろ」

「事件に巻き込まれるのが咲佑じゃなくて、俺だったらよかったのに」


     ・・・これは咲佑の治療が終わるのを待つ間、一番に思っていたこと。それを今言うか?


「凉樹・・・?」

「咲佑が誰かに傷つけられるなんて俺が耐えられねぇ」


     ・・・耐えられないのは事実だ。でも。


「凉樹・・・・・・?」

「いつでも咲佑のことを守れる盾になりたい。俺はお前と一緒に居たい。ずっと、ずっと」


 咲佑はまっすぐ凉樹のことだけを見つめていた。濁りのない澄んだ瞳に吸い込まれそうになったその瞬間に、胸の鼓動が早くなった。


これは恋なのか? いや、違うよな。でも前に母から聞いたことがある。「その人のことを常に考えていて、考えれば胸が締め付けられる。このときこそ恋してるのよ」と。


      だとすれば・・・。


「どうやら俺はお前のことが好きみたいだ。俺は咲佑と付き合っている未来しか想像できない。他の誰かに取られたくない。奪われたくないんだよ」


気付いたときには、俺はそう口にしていた。自分のことが信じられなかった。俺は今まで、女性が恋愛対象だと思っていたのに。それか、俺の恋愛対象を確かめるために咲佑と付き合うのかもしれない。でも実際、俺は学生時代に女性と付き合ったことが無かった。と言うより、そもそも異性に恋をしたことが無かった。まぁ、同性にも恋したことは勿論ないが・・・。まさか、初めての告白相手が咲佑になるなんて。


「俺も凉樹のことが好きだ。俺も凉樹と一緒に居たい。俺だけの凉樹でいてほしい」


俺は乱高下する気持ちを抑え、呼吸を整える。


「咲佑、俺と付き合ってみないか?」


咲佑はふふっと笑って、「いいよ」と答えた。


 叶うはずのない恋。許されない恋。そんなことはない。未来を変えてやる。そんな思いで二人は強い握手を交わした。


 タイミングよくやって来た店員。何も知りません、みたいな表情を浮かべつつも、頬はいつもより緩んでいるように思えた。


「お待たせしました」


 小さなテーブルに注文したメニューが置かれる。カフェラテのグラスには大小様々な水滴がいくつも付いていた。氷はカラカラと凉げな音色を立て、プリンは振動により皿の上で可愛く揺れる。サンドウィッチは具材が大きく食み出していて、思わぬ形で食欲がそそられる。


「いただきます」


喉仏を上下させながらカフェラテを飲む咲佑は、とても幸せそうだった。告白してよかった。そう思えた瞬間だった。咲佑のこの笑顔を一生傍で見続けていたい。いつまでも咲佑の盾であり続けたい。いや、死ぬまでずっと守り続ける。

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