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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第12話

 咲佑は十四時の五分前に、変装として黒縁の眼鏡をかけ、傷を隠すためか長袖に長ズボンという格好でやって来た。グループを卒業しても変わらない咲佑のことを見て、思わず笑みが零れてしまう。


「いや、何で笑ってんだよ」


咲佑は笑う俺をみて悪戯な顔で聞いてきた。しかも俺にしか聞こえないトーンで。周りは午後のティータイムを優雅に楽しんでいる。


「変わらないなって思ってさ」

「グループ抜けたからって唐突に変わらないよ」

「まぁそうだよな」


 二人が何気ないことで笑い合っていると、水を持ってきた店員が「ご注文はお決まりですか?」と一般客と同じように尋ねる。この店員は二人のことを米村咲佑と石井凉樹と認識したうえで。だからか居心地が良く、気付けば店の虜になっていて、仕事の合間にメンバーだけで訪れることもしばしばあった。


「いつもので」

「かしこまりました」

「お願いします」


店員が去っていくのと同時に咲佑は俺に顔を近づけてきて、「話って何?」と、興味津々な様子で言ってくる。咲佑のことを驚かせたい一心で、俺は「聞いて驚くなよ」と、さらに期待を持たせた言い方をする。


「何々?」


咲佑は素直なままだ。大人になっても少年感を忘れていない。俺と出会ったあの頃からずっと変わらないでいる。


「俺、十月から始まる新しいバラエティ番組のレギュラーに選ばれた」

「おぉー・・・、って、え! まじか!」


客の視線がこちらに一斉に注がれた。俺と咲佑は慌てて頭をぺこぺこと下げて謝る。そのことに対して愛想笑いを浮かべる人、こちらをちらちらと見ながら小声で話す人など様々だった。


「声大きいってば」

「ごめんごめん。だって驚いたんだもん。仕方ないだろ?」

「だよな。俺もまさっきぃから電話で聞いたんだけどさ、家で一人喜んだよ」

「喜んでる凉樹の姿が簡単に想像できる」

「うそ」

「ホント。そもそも俺ら何年も一緒に過ごしてきたんだから、それぐらい分かるって」

「あぁまぁそうか。俺ら付き合いだして長いもんな」

「そうだよ。これからも俺は凉樹と付き合い続けたいけどな」

「俺も。俺、咲佑がいないと駄目みたいだからさ」


 咲佑は嬉しさと戸惑いを滲ませる。が、この空気に耐えられなかったのか、頬が緩んだ状態で咳払いをした。


「とにかく、レギュラー決定おめでとう」


ハッキリとそう言われた。それに照れてしまい、変な感じで「おう」と答える。


   ・・・、こんなはずじゃなかったのに。


咲佑は俺のことを祝ってくれているのに、俺は心の底から喜べなかった。


 咲佑のことを想うと胸が締め付けられて苦しくなる。新規の仕事がどんどん決まっていく。それは凉樹だけじゃなかった。朱鳥は趣味が高じてのアウトドア番組にゲストとして出演。夏生はドラマの演技が評価され、ミュージカルの出演が決まった。桃凛は学業に専念しつつも、頭脳派の面を活かした仕事をしている。


なのに、咲佑はソロになっても相変わらず仕事のない日々を送っているらしい。天と地を見せつけられている気がして仕方ない。どうしてここまで違うのだろう。咲佑と俺は同じ空の下で暮らしているのに。

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