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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第11話

 うだるような暑さの中、一人で近所の商店街や遠くの激安スーパーに足を運んでは食材を買い、一人寂しく調理する。自由に使えるお金もなく、新作のBL漫画が出ても買えないために、持っているだけの漫画を何度も繰り返し読むだけの生活。別に嫌じゃなかった。でも本音を言えば、生きるために、生活を充実させるために、そして明るい未来のために、お金が欲しい。欲塗れな男だと自覚し始めたとき、咲佑はある人物に電話をかけた。


「社長、お忙しい時間帯にすいません。元NATUralezaの米村咲佑です」

「米村くん。直接電話してくるなんて珍しいね。何かあったのかい?」

「社長、俺からお願いがあります」

「こちらで受けられるお願いかね?」

「はい」

「何だい?」

「社長に言うのは間違ってると思ってます。ですが、言わせてください。俺、何でもやるんで、仕事ください!」


俺は社長が目の前にいるかのように深々と頭を下げる。床には額からの汗が滴り落ちた。


「本当に何でもやるんだな?」

「はい。どんなに危険なことでもやります。一度死にかけた人間なんで、いつでも死ぬ覚悟はできてます」

「それは困るよ。でも、それぐらいの覚悟があるってことだね、咲佑くん」

「はい。あります!」

「じゃあ明日の十三時に社長室に来なさい。一度顔を合わせてお話をしよう」

「分かりました! ありがとうございます! 失礼します」


 もう一度頭を深く下げた。真下に住む女性がベランダに吊るしている風鈴が、湿風に吹かれて甲高い音色を奏でる。


電話を切った俺は、すぐに和田に連絡を入れた。和田は仕事中だったようで、遠くから同業者たちの賑やかな声が聞こえてきていた。


「明日ですね。分かりました」

「急にごめんな」

「いえ。それで明日はタクシーで行かれるんですか?」

「いや、交通費が勿体ないから徒歩で行く予定だけど」

「交通費が高くつくのは分かります。でも、この暑さだと危険ですから、車を出しますよ。明日の十二時半前にお迎えに行きますから」


嬉しさのあまり零れる笑み。正直、心のどこかでこう言われることを望んでいたのかもしれない。


「分かった。ありがとな」

「いえ。それでは」

「おう。じゃあ」


電話を切った俺は、スマホを床に置き、大の字になって天井にできた染みを数え始めた猛暑日の昼。外では子供たちが燥いでいた。


 正午のチャイムが近くのスピーカーから響き渡るその音で目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだった。喉が渇き、規則正しく首を振る扇風機の前で、ぬるい麦茶を口に運んでいると、寝ぼけ眼の状態から覚ましてくれるかのように床で振動し始めたスマホ。画面には凉樹の名前が表示されている。


「もしもし?」

「咲佑、今暇か?」

「あぁ。いつでも暇だよ」

「あのさ、今から会えないか?」

「急だなぁ」


急な誘いでも、本当は飛び跳ねるぐらい嬉しい。


「俺が会いたいんだよ。駄目か?」


凉樹が発した言葉の球は、俺のストライクゾーンに入った。


「咲佑に言いたいことがあってさ」

「え、何だよ。今教えろよ」

「嫌だよ。直接会って話がしたいんだからさ。な、いいだろ?」

「しょうがねぇなぁ。会ってやるよ」


なぜか上から目線で答えてしまう。違う、そういう気持ちじゃないのに。


「ありがとな。じゃあいつものカフェに十四時で」

「分かった」

「じゃあな」


 凉樹との電話を終え、早速ダサすぎる部屋着から外出用の服に着替え始める。こんなだらしない格好じゃ会えない。今の生活ぶりを凉樹には絶対に知られたくないから。まだ凉樹の前で裸になるのが怖いから。でも、付き合うとなればちゃんと現状を伝えるつもりでいる。


俺は好意を寄せる人と会えるということに、胸を躍らせた。

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