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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第10話

 太陽は高い位置に昇り、アスファルトを照り付ける。陽炎がたつアスファルトの上を歩くだけで自然と汗ばんでくる。向かっているのは立ち食い蕎麦店。一昨日、傷害事件の犯人が逮捕されたことが報じられてすぐに朱鳥から、会って話したいとの連絡を受けた。いきなり朱鳥から電話がかかってきたときは驚いたが、口調から急いでいる感じがしたため、仕事が休みだという今日会うことになった。


 待ち合わせ時間よりも三十分も早く着いた咲佑は、店の入り口で朱鳥の到着を待とうとしていたが、朱鳥も待ち合わせ時間よりも早めに行動するタイプの人間であるために、咲佑が着いて五分もしないうちに現われた。およそ二か月振りにあった朱鳥は、金だった髪色を黒に染め直していて、以前よりも落ち着いているように感じられた。何となく朱鳥自身の心境に変化があるように思えた。


 狭すぎる店内で朱鳥がざるそばを、咲佑がもりそばを注文し、十分ぐらいで平らげて、店を早々に後にした。何も知らされないまま次の目的地に向かって歩いている途中、朱鳥が唐突に「俺、好きな人ができたんです」と言ってきた。流れるような発言に驚いたが、俺は素直に「おめでとう」と伝えた。


「で、今から行くカフェでその人と待ち合わせしてるんです」

「え、じゃあ俺邪魔じゃ…」

「邪魔じゃありません。逆にいて欲しいっていうか、会って欲しいんです。俺が好きになったその人に」


朱鳥の目はメラメラとしている。俺は何となく朱鳥が好きになった人がどんな感じなのか分かったような気がした。「分かった。楽しみにしてる」すると朱鳥は笑顔で「はい」と答えた。


 そば店から徒歩五分の距離にあった、外観がお洒落すぎるカフェ。店先にはかき氷のイラストが描かれた看板が出ていた。


「あ、いた」朱鳥が指差した先には、咲佑もよく知る人が座っていた。「お疲れ様です」そう言って、その人物は俺と朱鳥に手を振る。無造作ヘアに眼鏡をかけていても、隠し切れない可愛さが滲み出ていた。


「あぁ、やっぱり」

「ん? やっぱりってどういうことっすか、咲佑くん」

「朱鳥、よかったな。思いが通じて」

「ばれてました…?」

「うん。俺と似たオーラを感じたからな」


朱鳥は頭を掻きながらはにかんだ。


「桃凛、久しぶり」

「お久しぶりですぅ、咲佑くん」

「元気だったか?」

「はい! 咲佑くん、僕―」


 咲佑、朱鳥、桃凛は一台の丸テーブルを囲み、一つの大きな抹茶のかき氷を堪能した。仕事のこと以外にも、夏生にも彼女ができて順調に交際していること、朱鳥が桃凛に猛アプローチしたこと、メンバーからもお似合いのカップルだと認められていること、付き合いだしてまだ一か月しか経ってないこと、これからどういう感じで世に伝えるか、などといった友達同士とゲイ同士の、この三人にしかできないトークを楽しんだ。咲佑は二人が結ばれたことに悦びを感じたと伝え、それを朱鳥と桃凛も幸せだという。この空間は、ちょっとした幸せオーラに包まれていた。



 NATUralezaの四人が出演するCMが放送され始めた八月。咲佑は相変わらず自宅で過ごしていた。前に住んでいたところよりも十万円近く家賃が安い家に引っ越して初めての夏。実家は一軒家で、初めて一人暮らしした家もこのアパートよりも家賃が高いところに住んでいたために、隣人が出す生活音なんて気にしたことがなかった。それなのに、今住む家は隣人さんが付けている扇風機の稼働音やエアコンの室外機の音が窓を閉めていても聞こえてくる。でも、ずっと家にいるからか段々と耳が音に馴化し始めていた。何も変わらない日常。平和でいいかもしれない。でもたまには刺激が欲しくなる。だから、そろそろ本気を出さなければと思い始めていた。

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