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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第10話

 夏の昼下がりの公園は、人通りも少なかった。そもそも汗ばむ陽気のときに公園で過ごそうなんて人はいない。見かけるのはベンチの上に寝っ転がって上半身を焼いている人とか、買い物袋を両手に下げている人とか、そんなぐらいだった。だから逆に今伝えることができてよかったと思う。夕方になれば学校や仕事帰りのタイミングで、ここを行き来する人は増える。それに、夏生はこのあと仕事があると聞いているから、このあたりで解散しておかなければ。


「そろそろ帰るか」

「はい。僕、そろそろ仕事行かないといけないんで」

「僕も、大学の友達と一緒にやることがあるのでぇ」

「そっか。二人とも気を付けてな」

「はい」

「行ってきます」


夏生は下ろしていたバッグを背負い、桃凛はパソコンが入ったトートバッグを肩にかけ直し、それぞれの目的地へと軽快な足取りで向かっていく。その背中をぼんやりと眺めながら、朱鳥が口を開いた。


「凉樹くん、俺から相談したいことがあるんですけど」

「どうした?」

「凉樹くんって、誰かを好きになったことってありますか?」


 唐突の質問に驚いき、手に持っていた炭酸飲料のペットボトルを地面に落とす。動揺が隠しきれない凉樹を余所に、それをすんなりと拾い上げる朱鳥。ペットボトルの中では炭酸がパチパチと弾けている。


「急にどうしたんだよ?」

「いや、その・・・」

「朱鳥。もしかして好きな人ができたか?」


俺が核心に迫る質問をした途端、朱鳥は絵に描いたように慌てふためく。図星だ。


「いや、そうじゃないっていうか・・・、そうじゃないって言うのも変なんですけど・・・」

「違うのか?」

「違うっていうのも違うんですけど、何て言うか・・・、その・・・、気になる人が、できたんすよ」

「おぉ。それで?」


朱鳥の恋愛に段々と興味が湧いてきて、自然と前のめりの姿勢になる。メンバーの恋愛対象が女であることを願っているのか、それとも違ってくれたほうがいいのか、どっちがいいのか分からなくなっていた。咲佑と同じ類だと世間からまた非難されるだろうし、違ったら違ったで素直に喜ぶこともできそうにない。今の俺にできることは、ありのままを答えること。


 朱鳥は凉樹が前のめりになる一方で、何か後ろめたいことでもあるのかと思えるほど、視線は下を向いていた。が、意を決したのか、突然朱鳥は誰かが憑依したかのように姿勢を正し、凉樹の瞳を捉えてこう謂った。


「その人の性別が、男だって言ったら驚くっすよね」


朱鳥は笑っていた。不自然なほどに。そして朱鳥はさらに言葉を紡いだ。


「今はまだ信じたくないんですけど、どうやら俺も咲佑くんとお仲間みたいっす」

「そうか」


ありのままに任せた結果、凉樹の口から出たのはこの三文字だった。それを聞いた朱鳥は目を真ん丸とさせる。


「え、凉樹くん、聞いて驚かないんすか?」

「え、逆に何で驚かないといけないんだ?」

「いやいや、恍けないでくださいよー。驚くっしょ、ふつうは」

「そうなのか?」

「どうして驚かないんすか?」


 朱鳥は凉樹のことを、まるで水族館で泳ぐ魚に釘付けになる子供のような目をして聞いてきた。


そんな目をされたら、思った事、感じたことを素直に伝えてあげたほうが、今の朱鳥のためになるのかもしれない。


「慣れたって言うのも変だけどさ、咲佑のことがあって、色んな恋愛観があっていいんだよなって思い始めて。だからメンバーが誰のことを好きになろうが、どんな性別の人を好きになろうが関係ないって言うか。あ、そう言ったらなんかアレだな。メンバーに興味ないって言ってるみたいだな」


冗談ぽく言って笑ってみる。朱鳥は優し気な笑みを浮かべた。そのとき俺はこう思った。朱鳥のことを守れるのは俺しかいない、と。


「言いたいことはそういうんじゃなくてさ、なんていうか、リーダーとしてグループを引っ張ってきて思うのは、メンバーには楽しく過ごしてもらいたいってこと。今まで五人のグループ活動に終わりを迎えることなんてあり得ないって思ってたけど、咲佑が抜けて、NATUralezaは俺たちメンバーにとっても、応援してくれるファンにとっても、もっと自由に過ごせる居場所であり続けたほうが良いのかなってな。そりゃあさ、咲佑が抜けたとはいえ、同じグループに世間一般が思ってきた恋愛観とは違う見方をする人がいるっていうのは中々受け入れてもらえないかもしれないけど、俺たちはいつだって自由なんだ。同性を好きになる事は決しておかしなことじゃない。今はまだ否定的に思われるだろうけどさ、いつかは認められる日がくるだろうから、その日までは止まらないで欲しい。朱鳥には、朱鳥にしかできない恋愛もある。だから俺は朱鳥が気になる人と一緒に暮らせる未来が訪れることを、今はただ願うよ」


朱鳥は吐息のように俺の名前を呟く。


「咲佑のこともあったから色々不安に感じてることも多いと思う。でも大丈夫。俺が朱鳥のこと守ってやるから。だから心配すんな。朱鳥はそのままでいい。どんな人を好きになったって、朱鳥っていう一人の人物に代わりはいないんだからさ」

「・・・、そうっすね」

「咲佑が抜けてまだ二か月しか経ってない。これから先どんな壁が与えられたとしても、俺たち自身で乗り越えていくしか道は残ってないと思うんだ。だから今こそ力を合わせて頑張ろう。四人のNATUralezaを守っていこうぜ」


朱鳥は知らず知らずのうちに目に光るものを浮かべていた。朱鳥がどんな気持ちで俺の発言を聞いていたか知ることはできない。でも朱鳥の涙を見て、言葉にできない何かを感じることができた。吐露するか悩んだであろうこのことに、答えが出せる日はそう遠くないのかもしれない。


「凉樹くん、ありがとうございました」

「感謝されるほど、俺は何も言ってないよ」

「そんなことないっすよ。やっぱり凉樹くんに相談して正解でした」

「そうか?」

「はい。咲佑くんにもいい報告ができるように、気になる人にアプローチしてみようと思います」

「そうか。頑張れよ」

「はい。ありがとうございます」


 ペットボトルの中で炭酸は落ち着きを見せていた。二人のことを照らし続ける太陽。上昇していく気温。炭酸がぬるくなる前に中身を一気に飲み干す。そのとき見た空は、子供が描く青空みたいに、雲一つない綺麗な空が広がっていた。

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