表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
36/69

第二章 第9話

 あれから怒涛に過ぎていった一週間。咲佑にも了承を得たうえで、晴天に恵まれた今日、俺は仕事の合間を縫って三人に事件のことを話した。三人とも事が現実として受け止められないといった表情を浮かべ、俺の話を食い入るように聞いていた。


「でもぉ、咲佑くんに大きな怪我がなくてよかったですねぇ」

「うん。でも咲佑くんは何で事件に巻き込まれたんですかね」

「確かに、気になるよな。凉樹くん、何か知ってそうっすね」


あのときの俺は正常値から大きくはみ出していたのかもしれない。いや、きっとそうだ。傷ついた咲佑を目の前にした俺はただ単に正常を取り乱していただけだ。あのときと全く同じ状況に置かれても、今の俺はきっとあんなことを咲佑にしないはず。言わないはず・・・。


「凉樹くん、咲佑くんに―」

「は? えっ、いやっ、俺なんも疚しいことしてないから!」


一刹那の出来事だった。朱鳥が「え」と素の感情を露呈した。


「あぁ、悪い。今の聞いてないことにしてくれ」

「凉樹くんのためにそうしたいところですけどぉ、めっちゃ気になりますぅ。咲佑くんに何かしたんですかぁ?」

「俺も気になります。凉樹くん教えてください」

「二人から頼まれても断る。夏生が聞きたくないかもしれないだろ?」

「あのー、凉樹くんには申し訳ないですけど、僕も本音を言えば内容が凄く気になります。なので教えてもらいたいです」

「そういうことっす。凉樹くん、教えてくださいよ! 何をしたんですかっ」


差し出した拳をマイクに見立て、インタビュアーのような態度を取る朱鳥。夏生と桃凛は悪戯っ子のような目をしている。三人のやり取りに耳を傾けず、自分の世界に入り込んでいたことを今になって後悔する。


「絶対誰にも言うなよ」

「はい」

「実は俺、咲佑にキスした」

「・・・・・・」

「・・・っえ! 咲佑くんにキスですかぁ⁉」


桃凛がここ最近で一番の大声を響かせる。俺らは焦って周りを見渡したが、誰もこちら側を見ていなかった。


「ばかっ、桃凛大きい声出すなよ!」

「すいません、つい・・・」


夏生に注意され小さく謝る桃凛。一方の朱鳥はまるで恋バナ中の男子高校生のようなテンションで、俺にこう聞いた。「凉樹くん、いつキスしたんすか?」

「咲佑が目覚める前」

「どこにしたんすか?」


もう言い逃れはできそうにない。


「左頬に。そっと、ばれないように」

「で、ばれなかったんすか?」

「いや、キスして、俺が小さな声で咲佑って名前呼んだ瞬間に、ゆっくり目を開けた。そのことに関して何も言ってこなかったけど、多分気付かれてると思う」

「まるで白雪姫みたいっすね。あぁー、咲佑くんにとったら最高の目覚めだったんだろうなあ」

「んな馬鹿な。そんなんで目覚めたって嬉しくないだろ?」

「えぇ、そんなこと無いと思いますよぉ。例えば、僕は朱鳥くんにキスされて目覚められるなら、最高にうれしい気持ちになりますよぉ」


さらっと桃凛は爆弾発言をしたが、冗談的な意味合いで言ったのだろうとその場で誰も突っ込まず、そのまま流した。


「それで、咲佑くんが何で事件に巻き込まれたとか、そういうことは聞いてないんすか?」

「うん。詳しいことは聞けてない。事件のことを全然話そうとしなかったからね。それに、あんまり思い出したくなさそうだったからさ、俺も聞くのを躊躇った」

「そうですか・・・」

「多分、記憶が混在してるんじゃないかな。唐突のことだったし、仕方ないよ」

「辛いですね・・・」


咲佑が事件のことを憶えていないと言っていることについて、今は言葉を濁すことしかできない。


「まぁ、でも大事に至らなくて本当によかったですね」

「そうだな」


夏生がその場の空気を察知し、話を平和にまとめる。夏生がいなければ、この空気がひび割れていたかもしれない。


「僕、今度咲佑くんに会いに行こうと思います」

「あ、それいいな。夏生、そのときは俺も誘ってくれよ」

「二人とも僕を置いて行くなんてずるいですよぉ。僕も連れてってくださいぃ!」

「うん。分かった」

「三人が会いに行ってくれたら、咲佑もきっと喜ぶと思う」

「はい」


 三人が楽しそうにしている、それだけで凉樹の心は救われた。三人の存在は今までで一番大きく感じられる。今まで年上という立場で三人のことを引っ張ってきていたのに、いつの間にか凉樹は年下三人に助けられるようになっていた。これからはもう少しメンバーのことを頼ってもいいのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ