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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第8話

 遠くから誰かに名前を呼ばれたような気がして、ゆっくりと重い瞼を開けると、そこには見覚えのない天井と暖色系の明かりが目に飛び込んできた。そして右横から聞こえた、聞き馴染みのある声。その持ち主は、夢でも俺に逢いに来てくれた凉樹だ。


「よかった」


右手が彼によって握られる。気温とか関係なしに温かな手だった。


俺は、今自分が置かれている状況が全く把握できず、とりあえずいつものノリで彼に「よっ」と言ってみる。すると凉樹も同じようなテンションで、「よっ、咲佑」と手を軽く挙げて言ってきた。変わらない凉樹がいることに安心しつつも、自分が何でこの場所にいるかも、手の甲に絆創膏が貼られていることも、全く思い出せず当惑してしまう。でも彼なら俺が何でこの場所にいるのか教えてくれるかもしれない。そう思ってイチかバチかで聞いてみた。


「ここ、どこだ?」

「病院」


 脳内では色んな記憶が高速で再生され、それが入り乱れていく。


「俺…、どうしてここに…?」

「咲佑が俺に電話してきただろ? 事件に巻き込まれたって」


 凉樹に電話? 事件? 記憶を辿るも、その部分だけが砂嵐で消されている。


「そうだっけ…?」

「憶えてないのか?」

「……、憶えてないな」


俺がそう答えると、凉樹は事を冗談としてではなく本当のことだと感じたのか、腕を組み、頭をガクンと落とした。本当に憶えていないのだからこう答えるしかできない。でも、それを信じてくれているのはありがたかった。


 大きな窓の外から聞こえるカラスの濁声。見慣れない景色が窓の外で広がっている。そんな景色に背中を向け何かを考え込んでいる様子の凉樹に、咲佑は何気ないトーンで話しかける。


「なぁ凉樹」

「なんだ?」

「仕事、あったんじゃないのか?」

「あぁ、まあな」

「じゃあ、どうやって―」


彼は生唾を飲み込み、そして断言する。「仕事は朱鳥に任せて駆けてきたんだよ」と。


「何でだよ」

「そりゃあ、咲佑のことが心配だからに決まってんだろ?」


組んでいた腕を解き、顔を上げた凉樹。気のせいかもしれないが、瞼が少し腫れているように見えた。


「凉樹…」

「俺は、咲佑が助けを呼んだならいつでも駆けつける。仕事中だろうが、休みの時だろうが。まぁ地方にいるときはすぐって訳にはいかないけどな。でも、それだけ俺は咲佑を大事にできる。俺は咲佑のことが好きだから」


真っ直ぐな瞳。艶々な唇。今すぐにでも彼のことを抱きしめたい。

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