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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第二章 第8話

 凉樹は自分でもどれぐらいこの場に居るのか分からなくなっていた。心配からか力を入れていた脚はビリビリと痺れを感じる。ストレッチをしようとソファから腰を上げたとき、目の前にあるドアがゆっくりと開いた。その中から出てきたのは咲佑ではなく、どういう治療をするかという説明をしてくれた医者だった。


「あの、咲佑は・・・・・・?」


俺はどういう表情を浮かべていたのだろう。医者は俺の肩に優しく手を置き、こう言ってきた。「彼ならもう大丈夫だ。安心しなさい」


安心感からか膝下から崩れ落ちた。むせび泣く声にならない声が薄明りの空間に響いていく。こんなはずじゃなかったのに。泣くつもりなんてなかったのに。涙よ、止まってくれと何度も自分に指示を出す。なのに涙は溢れていく。まるで壊れた蛇口みたいに。



 咲佑は経過観察のためにしばらく入院することになった。幸い刺された傷は致命傷にならなかった。そのことが唯一の救いだったらしい。とても厳しい状態だったのにタクシーに乗り、電話をかけ、助けが来るのを待ったというのは、生きたいという欲があって、誰かを想ってじゃないと到底できることじゃない。もしあのまま放置されていたり、生きることを諦めていたら死んでいたかもしれないとも言われた。つまり咲佑は自ら生きるという道を選んだ。


看護師に案内された一人部屋。ベッドの上で寝ているか弱い咲佑の姿があった。殴られた痕には絆創膏が貼られる処置がされている。見るのは痛々しいが、これは生きることを選んだ咲佑の勲章なのかもしれない。


俺はベッドの横に置かれた小さな椅子に腰かけ、咲佑の寝顔を見つめる。今にも目覚めそうなのに、どれだけ俺が近づいても目を開けずに眠り続けていた。


病室は二人きりの空間。今この誰もいないこの場なら、俺は咲佑にどんなことだってできるような気がした。


 病室に案内されてから二時間後に咲佑は忽然と目覚めた。咲佑は今どこにいるのか分からないといった様子で辺りを見渡す。


俺はどさくさに紛れて咲佑の手を握り「よかった」と伝える。咲佑は薄目の状態で俺に視線を合わせる。


「よっ」


目覚めてからの第一声は思いのほか軽かった。逆にそれぐらいラフなほうが良かったのかもしれない。重すぎたら耐えられなかったかもしれないから。


「よっ、咲佑」


だから俺も咲佑のように軽いノリで手を挙げて答える。口元を少しだけ緩めた。


「ここ、どこだ?」

「病院」


そう言うと、咲佑は肘をつき、顔を顰めながらゆっくりと上体を起こし、手の甲に貼られた絆創膏を不思議そうに眺める。虚ろな目で。「俺・・・、どうしてここに?」

「咲佑が俺に電話してきただろ? 事件に巻き込まれたって」

「そうだっけ・・・?」

「憶えてないのか?」


俺がそう咲佑に問うと、しばらく考えたのち、ボソッとした声で「憶えてないな」と答えた。俺は身勝手に、目覚めたばかりで頭の中がまだ整理できていないだけだろうと、安易な発想でいた。だが、咲佑は腕に巻かれた包帯を色んな角度から眺めたり、顔に貼られた絆創膏に触れてみたりしている。そんな姿を見て、本当に咲佑は自分が事件に巻き込まれたことを憶えていないのかもしれないと思い始めた。


「なぁ凉樹」

「何だ?」

「仕事、あったんじゃないのか?」

「あぁ、まあな」

「じゃあ、どうやって」

「仕事は朱鳥に任せて駆けてきたんだよ」

「何でだよ」


咲佑の口調は疑問形とも、呆れているとも取れるもので、俺は返答に一瞬だけ困った。


「そりゃあ、咲佑のことが心配だからに決まってんだろ?」

「凉樹・・・」

「俺は、咲佑が助けを呼んだならいつでも駆けつける。仕事中だろうが、休みのときだろうが。まぁ地方にいるときはすぐって訳にはいかないけどな。でも、それだけ俺は咲佑を大事にできる」


      「俺は咲佑のことが好きだから」

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