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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第三章 第3話

 自宅から凉樹が住むマンションまでは、本来なら電車と徒歩で二十五分もあれば到着する距離にあるが、人目を避けたいがために徒歩を選んだ。が、猛暑手間の気温にノックダウン寸前となり、仕方なく大通りに出てタクシーを拾った。


四十代ぐらいに見える運転手は、メガネの位置を直し、俺の顔をルームミラー越しに見ながら、「元NATUralezaの米村咲佑さんですよね?」と、声のトーンを高めに聞いてきた。「はい」と答えると運転手は嬉しそうに、「娘があなたのファンでして。脱退された今でも応援しているんです」と、さらに興奮した様子で言ってきた。俺は、気が動転する寸前で、「ありがとうございます」としか返せなかった。こんな状態でなければちゃんと感謝を伝えることができるのにと思いながらも、運転手に目的地としてマンション周辺の人通りが少ない裏道を指定した。運転手はカーナビを慣れた手つきで操作し、ウインカーを出して本線に合流した。運転手は緊張を隠しきれない表情で運転し、俺は刺された箇所を気にしつつも、平然を装って後部座席で揺られ続ける。今まで幾度となく乗ってきたタクシーだが、冗談抜きで一番安心できる運転だった。


 タクシーは緩やかにスピードを落とし、安全確認したうえで路肩に停まる。運転手から料金が告げられ、財布から札だけを取り出し、お釣りは全部胸ポケットに入れ、礼を告げてタクシーを降りる。冷房が効いていた空間とは一変、太陽が燦燦と降り注ぐアスファルトの上で、俺は一心不乱に歩き続けた。結局、目的地のマンションに辿り着いたのは、出発してから五十分後だった。


「着いた」


タクシーの振動に耐え抜いた俺は自分の心に呟いて、マンション近くにある公衆電話へ足早に駆け込んだ。息を吐くとともに安心したためか、前身の力が抜けてしまったかのように、その場でしゃがみ込んでしまった。周りを歩く人たちは、俺のことを見て見ぬふりをして通り過ぎていく。でも今は逆にありがたかった。声をかけられることが怖くて仕方ないから。ただこの場でしゃがみ込んでいても彼は助けに来ない。俺はボックスの中で力を振り絞って立ち上がった。手にはじんわりと汗が滲んできていた。

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