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なみだの決戦日  作者: 成城諄亮
第1章
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第一章 第14話

 五月三十一日。NATUraleza五人で過ごす最後のとき。夏生まれが集まっただけあって、お昼には七月中旬並みの気温を突破した。そんな暑さの中、五人は最後のステージに立つ準備を進めていた。ファンに向けて開催される今日のイベントは、デビューしてすぐに立った小さなステージで行われる。イベントは同時に動画サイトで配信されるようになっていて、その分多くのスタッフたちが出入りする。


 二十歳越えの男たちには少し小さい楽屋。五人は身を寄せ合い、十八時からのイベントに向けて準備を着々と進める。そのころ、ちょうどキッチン側からは美味しそうな匂いがしてきていた。時計を見ると、十二時を過ぎたばかりだった。


 イベント前の食事は五人揃って食べることが、デビュー当時からの暗黙のルールみたいなものになっていた。誰かが強制したものでなく、たまたま食事の時間が同じだったために、自然とできた流れだった。その代わり、ご飯を食べる前と食べた後は相手の邪魔もせず、黙々と自分たちのルーティンをして過ごす。これがお決まりになっている。今さら変えることはできない。


「そろそろご飯食べるか」


 凉樹が触っていたスマホを机に伏せる形で置き、ケータリングがある方向を指差す。朱鳥たちは返事をして、料理が並ぶスペースへ歩いて向かう。それぞれが好きな料理を皿に盛り付け、テーブルに並べ、顔を見合わせながら食べる。


朱鳥や桃凛はおにぎりやサラダなど自分の好物をどんどんと口に運んでいく。しかし夏生の手は止まったままで、うどんの麺が太っているような気がした。そのことに気付いた凉樹が納豆をかき混ぜながら聞く。


「夏生、うどん食べないのか?」

「いえ、食べますよ」

「食べないと伸びるんじゃないのか?」

「そうですね・・・」

「どうした? 元気ないな」

「元気ですよ。でも、楽屋で五人揃って食べるご飯も今日が最後なんだなって思うと、なんか食べる気が失せちゃって」

「そうか」


凉樹は納豆の入ったパックをテーブルの上に置き、夏生の背中に手をやる。二人のやり取りを目の前で見ていた朱鳥と桃凛も、食べる手が止まっていた。


「夏生、そうやって思ってくれてありがとう。でも、今は食べないと後の日程が差し支える」

「ですよね・・・」

「こうやって楽屋でご飯を食べるのは最後だけど、食事会みたいなのは日程さえ合えばできるんだよ。だからそう寂しがらないで。せっかくのうどんが伸びたら美味しくなくなるだろ?」

「咲佑くんの言う通りですね。すいませんでした」

「いいんだよ、夏生。ありがとう」

「いえ。じゃあ、いただきます」


夏生は咲佑は前で太ったうどんを啜る。瞳には涙を浮かべているようだった。


 時間までの間にそれぞれがルーティンを終え、出番五分前にスタッフの案内でステージ奥に行く。すでに客席からはコールがかかっている。会場ではNATUralezaの曲がカラオケの状態で流れているのに、それに負けじと声を出すファンたち。その声を聴きながら、五人は最後の円陣を組む。


「咲佑くん、準備できてますか?」


咲佑の左隣で肩を組む夏生が、音楽とファンたちの声に掻き消されないように問う。


「おう! バッチリできてんぞ! 朱鳥も、夏生も、桃凛もできてんのか?」

「俺たちもバッチリっす!」


三人は大きく頷く。


「凉樹は、盛り上がる準備できてんの?」

「この状況で盛り上げられないわけないだろ?」

「だよな!」


一番テンションが高い凉樹。隠しきれないワクワクが口調からはみ出ていた。


「最高の卒業式にしましょうね!」

「だな!」

「咲佑くんが誰よりも楽しんでくださいよ!」

「おう! みんなも、楽しんでくれよ!」

「任せてください!」

「じゃあ、行くぞ!」

「っしゃぁー!!」


五人の表情は一片の曇りもなく快晴だった。ファンが作り出す熱気の中へ、五人は勢いそのままに飛び込んだ。


 五人の登場を待ち侘びていたファンたちは大きな拍手と歓声を上げる。大量のスポットライトが当たるステージで、ファンたちが持つペンライトに照らされて踊り出す。デビューしてすぐに立ったあのときよりも輝きを放つ五人。その一瞬一瞬が、今日まで歩んできた道は、間違っていたわけじゃないことを示してくれているみたいだった。

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