共に帰って
走り回る実行委員。校舎内に響く応援団の声。
体育祭前日の慌ただしい空気の中、私たち競技部門の面々は、生徒会の役員と共に審判の練習をしていた。実行委員会がする運営の手伝いは、準備だけでなく当日の審判なども含んでいたらしい。
「この競技はここに審判をおきたいんだけど…じゃあ、折笠さんと羽瀬さんにお願いしようかな。いい?」
「え、あ、はい!」
「…分かりました。」
「えっと、よろしくね、羽瀬さん。」
「…。」
鋭い目つきのまま顔を背けた羽瀬さん。あの競技練習の後も私とだけ話してくれなかったり、睨まれてしまったことが何度かあった。なるべくこまめに、笑顔で話しかけているのだが、未だに心を開いてくれない。
「一回本番と同じように通してみるよー!」
『はい!』
当日の進行と同じアナウンスが流れる。それに合わせて自分の立ち位置へ移動し審判をしたら、本部のもとに集まり得点や反則を伝える、という動きを確認する。
「これ、意外と忙しくない?」
「あー、確かに。ね…山岸さんは、私よりも審判する競技多いもんね。」
「そーなんだよなぁ。ほんとはフツーに観戦したかったんだけど。」
猫さんが残念そうな顔をする。実行委員は自分が参加する競技の審判はもちろん出来ないため、その合間の競技に仕事が割り振られているのだ。
「…やる気ないじゃん。」
「え?折笠さんなんて?」
「えっ、私じゃないよ?」
ボソッと羽瀬さんが呟いた声は、猫さんには聞こえなかったらしい。聞き返した猫さんを小さく鼻で笑うと、羽瀬さんは行ってしまった。どうやら私だけでなく、猫さんも好いていないようだ。
「はい、オッケー。前日練習はこれで終わりです。明日もこんな感じでよろしくね~。」
「はい!頑張ります!」
「お疲れ様でした~。」
打ち合わせも終わったところで、今日は解散となった。体育祭前日は準備が忙しい割りに退校時間が早い。そろそろ帰らないと、と猫さんと荷物を取りに教室に戻る。
「あれ、賢斗とはる?」
「お、きさらっちじゃん!今帰り?」
「うん。そっちも?」
「そそ。」
教室に行くとなぜかれいが待っていた。そういえばれいも実行委員だった。
「ねえ、もし良かったら一緒に帰らない?」
「あー、ごめん俺は用事あるからパス。」
「じゃあ、はるは?」
「私はいいけど。…二人で帰るの?」
「うん。…え、だめ?」
「いや、別に…。」
「ふ~ん?いいじゃん。じゃ、俺お先~。」
明らかにルカとノリが一緒な猫さんは、荷物を掴むと行ってしまった。二人きりになるのは家に行って以来だ。
「じゃ、帰ろうか。」
「うん…。」
その後しばらくは勝手に気まずさを感じていた私だが、同じく実行委員というのもあり意外と話が盛り上がった。…盛り上がりすぎて、帰り道の途中の公園でブランコに乗りながら相談会になった。れいのいる機材部門は近日に数回あった打ち合わせ以外、ほぼ備品部門の手伝いで荷物運びなどをしていたらしい。おかげで腕が痛い日が続いたそうだ。私の方からは羽瀬さんのことを‛仲良くなりたい人’と名前は出さずに話した。
「そっか…、それは難しいね。」
「うん…。」
「でも、明日は体育祭だし。もしかしたら、その場の空気でなんとかなるかもよ?ついでに仲良くなれると良いね。」
「そうだね…。せめてフツーに会話したいな。」
「うん。…あ、そうだ。ちょっと待ってて。」
「え?あ、うん。」
れいは立ち上がりどこかへ行ってしまった。私がぼんやりと前を眺めて待っていると突然頬にひんやりとしたものが触れる。
「わっ!…え、れい?」
「ん、あげる。明日はお互い頑張ろうね。」
ひんやりの正体はフルーツオレだった。ふわっと笑うれいの手にも同じものが握られている。励ましてくれているのだろうか。
「うん、そうだね。ありがと。」
私は蓋を開け一口だけ飲んだ。その甘くて優しい味に大丈夫と背中を押されたような気がした。
澪好き…!優しい…!
来鳥ちゃんなかなか難しい性格だけど…頑張れ、陽!




