プロローグ 傘を開いて
「優しい気持ちになる恋愛小説」を目指して、執筆させていただいております。
拙い文章かと思いますが、あたたかく応援してくださると嬉しいです。
土砂降りの夕暮れだった。
突然、バケツをひっくり返したような勢いで降り出した雨は、しばらく止みそうにない。親はまだ仕事中だから迎えは頼めないだろう。ルカも先に、帰ってしまっている。そんなわけで、退校時間ギリギリにも関わらず、私は一人生徒玄関の屋根の下で突っ立っていた。
「どうしよう…。さすがにこの時間だし、誰もいないよね。」
「あれ、まだ誰かいたんだ。…あ。」
絶望した独り言に呼応するかのように声がする。驚いて振り向くと、こちらも驚いた顔の男子と目が合った。入学式の時にいたような気がするから、たぶん別のクラスの一年生だろう。
「君、二組の折笠陽だよね。誰か待ってるの?」
「えっ…?」
まさか名前を知っているとは思わず、警戒した声になってしまった。明らかに不審がる私を見て、相手は慌てた表情になる。
「あ、え~っと、驚かせてごめん。瑠花が、よく君の話をするから知ってたんだ。」
「あ~、なるほど。」
ルカは知り合いが多い。確かに私の話が出ても不思議ではない。とりあえず警戒を解く私に安心したのか、相手は更に問いを重ねる。
「もしかして傘持ってないの?」
「…うん。」
「名前『おりかさ』なのに?折りたたみとかは?」
「は?…うるさい!」
初対面なのに、ずいぶんと失礼な奴だ。口から出た強めの返しにも、驚くことなくからかうように笑っている。あまりに馴れ馴れしくて、やっぱり警戒する私に、笑いが落ち着いたそいつはいきなり傘を差しだしてきた。
「これ使ってどーぞ。じゃ、おれ帰るねー。」
「…え?」
突然の出来事に啞然としているうちに、そいつは隠し(?)持っていたもう一本の傘を開き、ヘラっと笑って、あっという間に行ってしまった。私は先ほどとは違う理由で突っ立っていたが、奴の姿が見えなくなると同時に立ち直る。
「あ…。名前聞いてないや。」
傘を返す時のために、せめてクラスだけでも聞いておけばよかった。何か手がかりがあるかも、と思い傘に視線を落とす。布の部分が濃い紺色で、持ち手が木という普通の傘だが、その見た目に似合わない虹色のタグがついていた。
「あれ…?何か書いてある?」
よく見るとネームペンの跡がある。文字が薄れている上に、伸びてしまっているがかろうじて「■■澪」とだけ読み取れる。
「んー…。たぶん、なんとか『みお』かな?」
心当たりは全くないが、まあ、ルカに聞けば分かるだろう。今は悩んでいても仕方がないので、ここは有難く使わせてもらうことにする。うん。
色々と気になることを振り払うように、パッと傘を開いて帰路につく。
―合図だった。




