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第5話 弓矢で死んだ男

「聞いてくれよ、ローシャ」

との文言から始まる幼馴染の言葉は大抵碌なことに繋がらないと分かりつつも結局は最後まで聞いてしまい、ローシャはリオンと共に美味しいジャムを作るという子爵夫人を訪ねる事になった。

原因は人気で商店に卸している分も品薄になっていたジャムをそんな貴重品とは知らずに存分に味わって大量に食べたことから買ってしまったリオンの母の不興をなんとか直そうと直接買い付けに来たことから始まる。

食べ物の怨みは恐ろしいというものだ。

「まだあるといいな」

「手紙で事前に連絡した時はご用意してお待ちしておりますって返ってきたぜ」

それはそうだ。次男とはいえ公爵家の者と子爵家の者。身分差は明確なのだから断ることも早々に難しいだろうとローシャは思った。

そしてリオンの己の立場の理解のなさに時々ひやりとさせられる。

いつまでも気楽な次男坊、何も知らない子供のままではいられはしないといつになったら分かるのか。

爵位の差が、身分の差というものがどれ程のものか今一度学習し直した方がいいと思う。

学校に通うようになれば尚更だ。政治の世界に身を置くことにもなるだろう。

ローシャとて、今までのようにはいかないだろうと思っていた。


子爵邸に着いてすぐ応接室に案内され、子爵夫人が対応に出てきた。

「本来なら主人がご挨拶に参りますところを申し訳ありません。どこを探しても見つからなくて……」

夫人が謝罪をしていると、奥の方から叫び声が聞こえ一目散にリオンとローシャが現場まで駆け出した。

毎回の事ながら足のリーチの差でいつもリオンが先に辿り着くが、リオンは忠犬よろしくローシャが息を切らしながら現場に着くまで待っている。いつもの一連の流れだった。

現場は洗濯室。

洗うシーツを入れるランドリーボックスの前で使用人らしき男が座り込んでおり室内に入るとランドリーボックスの中から手足が見えた。

腰の抜けた使用人を追い越しランドリーボックスの中を見ると弓矢がほぼ直立で刺さっており、そこから血が滲んでいた。

「警官が来るまで現場保存が大切だ。とはいえ、来たら何も出来なくなる。リオン。そっちを持て。少しだけシーツを動かしてご遺体が誰か調べるぞ」

そしてゆっくりと持ち上げられた幾重にも重ねられたシーツの下には絶命した男の遺体があった。

この家の当主だった。


リオンはシーツを一枚づつ確認した。

「この血濡れのシーツは…」

「恐らく、返り血を防ぐためだろうね」

ローシャもシーツを確認しながらどこまで血が染みているのか確認していった。

「でも、弓矢で遠くから撃たれたのなら返り血を浴びないんじゃないか?」

「そうだな……」

何かを考えながらシーツと弓矢を交互に見るローシャにリオンはなおも疑問点を口にした。

「殺してからランドリーボックスに入るなんて不思議な事をするよな」

リオンが首を傾げるが、ローシャは首を横に振った。

「いいや。この血はシーツの下へと染みていっている。子爵はランドリーボックスの中に入れられてから殺されたんだ」

「ええっ!?でも、このランドリーボックスはかなり大きく深いぜ?それを上から弓矢で打つならこの角度なら犯人はかなりの長身になる。そんなやつ、この屋敷にどころか人間にはいないと思うぜ?」

ランドリーボックスの中でほぼ真上から矢で胸を打たれている子爵を思い出し、角度から犯人は長身の男と決め付けるリオンにローシャは軽く言った。

「その件なら解決済みさ」

なおも疑問が解けないリオンにローシャが説明していく。

「まず、子爵をランドリーボックスに入れ込むのはか弱い女性には不可能だよ、リオン。よって、この事件の犯人は男性に限られると僕は思うね」

「だろうな。子爵は体格も良さそうでランドリーボックスも窮屈そうだ」

リオンが頷くのを見てからローシャは事件の一番の難点を告げた。

「矢は弓で打たれるものだと思う盲点を突かれたんだ」

「どういうことだ?」

「手で矢を刺したんだ」

リオンはなるほど、と納得するともう一度遺体の入っているランドリーボックスを見た。

矢はまだほぼ直立で刺さったままだ。

「恐らく、睡眠薬かなにかで子爵の気を失わせてランドリーボックスに放り込みシーツを被せて血が自分につかないようにして上から矢で刺し殺したんだ。弓矢の矢で刺したのなら弓矢で撃たれたんだろうという思い込みを利用しようとしてね」

ローシャは続ける。

「そしてあの血濡れのシーツ。僕達が来た時はまだ滲みが広がっていた。そう、先程刺されたかのようにね」

「すると犯人は?」

リオンが尋ねるとローシャは確信を持ちながら告げた。

「第一発見者の使用人を疑うべきだろうね。刺してから悲鳴を上げて人を呼び寄せあたかも最初から子爵がランドリーボックスの中で死んでいたかのように思わせたのさ」

そこまでローシャが言ったところで警察官が子爵邸に辿り着いた。


「事件の概要はこの紙に書いた。あとは警官の目につくように置くだけだな」

「今回も警察の手柄にしてしまうのか?」

リオンはもったいないといつも言う。

だが、ローシャの考えは変わらない。

「何度も言っただろう、リオン。彼等は捜査が仕事の警察官で僕等は親の庇護下にあるしがない貴族子息さ。お互いの領分を荒らしてはいけないよ」

「俺は貴族探偵もいけるとおもうんだけどなぁ」

「なんだい、貴族探偵とは。第一、その頃には家から出て単なるローシャになっているだろうよ」

そう現実を言うとリオンが悲しそうな顔をすることが分かっていても現実をわかって欲しくて何度も言う。

法律家か、内科医、軍士官、一定のステイタスはあればいいが、まだ将来を決められずにいるローシャと違いリオンはすべてが決められている。

働かずに食べられれば理想的な生き方だけれども。

それでもリオンはローシャににこやかに話し掛ける。

「やっぱり名探偵のいるところには事件が起きるんだよ」

何故か自信満々にリオンが言うがローシャは呆れて返す。

「どこかの誰かさんも事件現場にいつだって遭遇しているがね」


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