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第二十二話 「犯人は」

「犯人はあの人です。間違いありません。この目で見ましたもの」

ある人は言った。

「犯人はあいつだ。あいつ以外いない」

別の人も言った。

ローシャが尋ねると決まって犯人像は同じものだった。

「そのあいつというのは?」

「いつも帽子を目深に被って猫背の髭を生やした男だよ」

この繰り返しを何度したことか、ローシャは頭を痛めた。

誰もが『あいつ』を知っているのに名前も何も知らない。

知っているようで知らない証言が1番面倒だ。

「『あいつ』って、誰なんだろうな?」

「さてね」

ローシャは肩を竦めた。

さて、誰も彼もが言う「犯人」とは誰だろう?

大勢が見たと言うのに実態は掴めない。

ただ、皆一様にとある方角を一瞬眺めたことが気になっていた。

事件は貧民街で起きていた。

何故、貴族のローシャとリオンが貧民街にいるかというと、貴族の慈善事業の一環だ。

そこである噂を聞いたのだ。

『あいつ』が貧民街で悪さをしていると。

それを聞いて、放っては置けないのも貴族としての務めだ。

ローシャとリオンは、その悪さについて書き込みをした。

曰く、盗みをした。

曰く、女性に暴行した。

曰く、子供相手に盗みを働いた。

数を上げればキリがないが、おおよそ貧民街でいつも行われていることだった。

「嘆かわしいな」

「ああ……」

ローシャとリオンは俯いた。

二人の家や他の貴族がどんなに援助しようと、貧富の差は無くならない。

それが子供であるローシャとリオンにはとても心苦しい。

しかし、だからこそ、今回の貧民街で騒ぎを起こす『あいつ』を捕まえなければならない。

貧民街には警察もあまり近寄らない。

ローシャとリオンに懸かっている。

「早く『あいつ』を見付けてここにいる方々を安心させないと」

「ああ!」

意気込む二人と違い、困っているはずの貧民街の住人はどこか迷惑そうだ。

護衛に囲まれた貴族の子息が我が物顔で貧民街で事件の謎解きをしようとしているのが良い気がしないのだろう。

二人はそう思っていた。

しかし、何時間尋ねても皆一様に答えは同じだった。

これはおかしいぞ、と顔を見合わせたローシャとリオンは日が暮れてきたこともあり、一度屋敷に戻ることにした。

「『あいつ』って誰なんだろうな」

「さてね」

ローシャが紅茶を一口飲むと、ふと、気になることがあった。

「そういえば、あそこには教会もあったはずだ。困った市民はまず、教会に頼るだろう。明日は教会に行ってみよう」

「そうだな、それも良いかもな」

もう夜も深い。

リオンはローシャ宅に作ってもらってあるリオンの部屋に向かって泊まりに行った。

「教会、『あいつ』、口を揃える市民、ねぇ……」

ローシャは冷めた紅茶を最後に一口飲むと、下げさせて寝る準備に取り掛かった。


翌日はどんよりとした雲が広が出ていた。

二人が乗る馬車が貧民街を進むと、貧民街の住人はこぞりと話をし合っている。

「昨日もだが、やはりここに馬車は目立つな」

「だけどよぉ、そうしないと許可が出ないだろう?」

慰問の条件に、ローシャとリオンのみで訪れる時は馬車で護衛は四人以上と決められていた。

親の愛情と取るか、貧民街への偏見と取るか。

ローシャは悩んでいた。

「着きました」

行者の言葉に、二人は馬車から降りた。

貧民街の教会は、貧民街にあるとは思えないほど美しく小さな白亜の城だった。

「意外だな」

「ああ……行こう」

場違いなその小さな城、もとい教会に二人は足を踏み入れた。

教会はごく普通の内装だった。

一般的な教会で、奥に懺悔室があるようだった。

二人がきょろりと室内を観察していると、奥から神父が現れた。

「これは、これは。貴族のご子息が昨日からこの地区に訪れていると噂で聞きましたが、あなた方でしょうか?」

温和な神父だった。

「はい。慰問に訪れておりました」

「随分と立派な建物ですね」

少しの疑念を込めてローシャが尋ねた。

「皆様のお布施のおかげです」

にこりと神父は微笑んだ。

ローシャの目線は奥の懺悔室にいっていた。

「頑丈そうな懺悔室ですね」

「市民の悩みや懺悔を他人に聞かれるわけにはいきませんから」

変わらず微笑む神父。

ローシャは踏み込んだ。

「僕にも懺悔したいことがあるんです。話を聞いてくださいませんか?」

「貴族のご子息のお役に立てるか分かりませんが、助けを求める者を見捨てはしないのが我々です。こちらへどうぞ」

「はい」

ローシャは神父に導かれるまま懺悔室に向かった。

「おい、ローシャ!」

「心配は要らないさ」

そう言って、ローシャは懺悔室に入って行った。

「実は僕達、この貧民街で悪事を働く『あいつ』の正体を探しているんです」

「私も存じ上げています。『あいつ』、皆さん不安に思ってらっしゃいます」

神父は眉間に眉根を寄せて苦し気に言ったが、ローシャは断言した。

「『あいつ』の正体、犯人は神父様、あなたですね」

神父は微笑んだ。

「何故そう思うのですか?」

「この白亜の城です。貧民街の教会には不釣り合いだ。あなたは懺悔室で聞いた話をネタに脅して私腹を肥やした。違いますか?」

神父の笑みは崩れない。

「それはあなたの想像でしょう?」

「はい。ですが、貧民街の住人に尋ねれば、きっと証言は出るはずです。なにより、僕達が聞き込みをしていた時、皆さんこちらを眺めていた」

そう。貧民街の住人に尋ねれば皆教会を見て、すべて同じ証言。

まるでそう言えと言われているかのように。

それは強者の強制だった。

「それは、それは……」

「どうなんでしょうか?」

「それは神のみぞ知る、と言っておきましょうか」

ローシャは拳を握り締めた。

「民を守るのも僕達貴族の役目だ。あなたの悪事は必ず暴いて皆に平穏な暮らしをさせてみせる」

神父は口角を上げて悪辣に笑った。

「ご自由にどうぞ」

「……失礼します」

ローシャが懺悔室から出ると、リオンがローシャに抱き付いた。

「ああ!ローシャ!無事でよかった!」

「心配性だな、リオン」

「いつもと逆だな」

「そうだな」

リオンは真面目な顔になった。

「なぁ、神父は『あいつ』なのか?」

「多分ね」

「じゃあ、捕まえないと!」

「証拠がない」

ローシャとリオンは顔を見合わせて溜息を吐いた。

「残念ながら、今回は警部に報告して巡回を多くしてもらうだけしか出来ないよ」

「でも、貧民街の連中を軽んじている警察に任せて大丈夫か?」

「それは……」

ローシャには答えられなかった。

でも、希望はある。

『あいつ』がわかったのだ。

「とりあえず、今日は帰ろうか」

「ああ、そうだな」

そうして二人が帰ったところに一つの馬車が静かに訪れた。


「こんにちは」

「これはこれは、カイン様。ようこそおいでなさいました」

神父カインを歓迎した。

「『遊び』は楽しいかい?」

「はい、カイン様にご教授していただいてから大変楽しい毎日ですよ」

にこりと変わらぬ笑顔を浮かべる神父にカインも満足気だ。

「これからも面白い『遊び』があったら教えるね」

「ぜひ!お願いいたします。特別室も順調に作られていますよ」

「それは、すごいね」

神父の趣味を思い出してカインは微笑んだ。

微笑む二人に和やかな雰囲気が流れるが、その言葉の内心を知るものからすれば背筋が凍るものだった。

「それじゃあね。ローシャくんも君に興味を持ったみたいだから来てみたんだ」

「ローシャ様。あの子もとても愛らしいですね。苦痛の表情も似合いそうです」

「……だめだよ。ローシャくんは僕のなんだから」

その言葉の圧に、神父は慌てて頭を下げた。

「はい。かしこまりました」

「それじゃあね。またおもちゃが必要になったら寄ってみるよ」

「かしこまりました。とびっきりの良品をご用意しておきますね」

そうして二人は別れた。


「くしゅん」

ローシャのくしゃみにリオンが心配そうに気遣った。

「大丈夫か?」

「ああ。貧民街は思っているより寒いな。早くここもなんとかして貧富の差を無くさないと」

「ああ。人類は平等であるべきだ」

難しいことを真面目に真っ直ぐ言う幼馴染に、思わず笑ってしまい、ローシャは心が温かくなった。

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