第20話 改めて
カミュを語るグラッテ伯爵の庶子とグラッテ伯爵は、夫人に毒を盛り殺害未遂、契約結婚だった夫人の庶子の妹に恋をして無理矢理手を出して子を産ませたこと、愛する人との子を実子にしたくてカミュを殺害してよく似たその子供をカミュとして語ったこと、女性は姉の夫と関係を持ち子を産んだことで心を病み自害したこと、貴族を騙したことなどを含めてそれは重い刑になったらしい。
らしいというのはローシャもリオンも詳細を聞かされないからだ。
いつもそうであった。
二人が事件を解決しても、その後がどうなったかは知らされない。
大人達の配慮により、二人は危険な事に首を突っ込めば怒られて事件を解き明かせば褒められるどころか危ない真似をしてと家族に叱責されるばかりであった。
しかしそれは家族の愛だと二人は理解していた。
大切だから傷ついてほしくないし危ないことをしてほしくない。
少々やんちゃをしてもまだまだ周囲から見れば守られるべき子供なのだ。
真綿に包んで危険から遠避ける。
それは貴族として、より当然のことであった。
アーサー警部もそうだ。
二人のことを褒めはすれど、お小言もあれば両親への報告もされる。
子供を守れないことは警察として恥ずべきことだからだ。
「だけどな、俺達には責任ってものがあると思うんだよな」
「責任」
ローシャはリオンから突然出た言葉を反復した。
謎を解いて犯人を捕まえるまではするけれど、ローシャにはどれも地に足つかず浮ついた出来事だったのだ。
いや、確かに責任もあるし義憤に駆られてナターシャ嬢をこの屋敷に引き取ったこともある。
でもそれは果たしてリオンが感じる程であっただろうか?
ローシャは首を傾げる。
「ローシャは今までの犯人や事件のその後が気にならないのかよ」
「…まあ、新聞を読んでいればそれなりの情報は集まるけどね」
でもそれだけだった。
すべての事件の犯人や人の死に許せないとは思っても、そこまで熱くはなれただろうか?
ローシャは考える。
そこでふとカインを思い出した。
彼は言い得ぬものがあり、いつか、いやもしかしたらもう既に人を殺しているんじゃないかと感じていた。
そうだ、カイン程の熱さがないのだ。
彼程のことだから、そんじょそこらの事件と同等にしてはいけないのかもしれない。
ああ、なんで僕は彼をそんなに気にしているのか。
ローシャは再び首を傾げた。
「おい、ローシャ。大丈夫かよ」
「ああ、大丈夫だよ。実はね、関わった事件のスクラップをしてあるんだ。もしよければ一緒に読まないかい?僕が一人で読むより、君と一緒に読んだ方が有意義だ」
棚から分厚いノートを数冊引き出すと、ローシャは悪戯っぽく微笑んだ。
「なんだ。考えることは同じだな」
リオンはやけに大きな鞄から似たようなノートを取り出した。
「もう一度、答え合わせをしようぜ」
「ああ、いいとも」お互いのノートを読み合って、事件を振り返り、もっと上手いやり方はあったのではないか。大人、主に警察を頼れるようにもっと知り合いを増やしてはどうかなど話は弾んだ。
アーサー警部は、あれで警部だ。
もっと、身近な存在が好ましい。
「なんとかいい人いないかな」
「アーサー警部に相談してみるか、護衛を巻き込むか…」
「護衛なんて巻き込んだら即親に告げ口されるぜ!?」
「そうだよねぇ」
二人で腕組みをして考える。
「いっそ、町人で誰かいないか探してみるか?」
「腕に自信があってこんな子供の護衛をひっそりと引き受けてくれる人かい?そんな奇特な人物いるかい?」
「やってみなきゃ分かんないだろう!とりあえず希望を書き出していってみようぜ」
リオンがあまりに真剣に語らうものだから、ローシャも頷いてしまった。
「いれば僥倖だね」
ノートを一枚捲って、理想の護衛役を書き出していく。
こんな人物いるわけないし、そもそも両親がつけてくれた護衛の面目丸潰れだ。
叶わぬ夢と思いながら、ノートに夢が埋まっていく。
そこでローシャはカインのことを思う。
自分はきっと彼に殺される。
それを守ってくれる騎士が本当にいるのなら、そう一縷の望みを描いてノートは一枚埋まっていった。




