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9 理不尽な追放

 ガラスコップが床に落ちて割れる音だった。ルグスがそれに気付くと同時くらいに怒鳴り声が響き渡る。


「今、何て言った⁉」

「だから、付き合う気は無いって言ったし。テメーみたいな下品なやつ、あたいは大嫌いだし!」


 対面で席に着いている男女、という点ではルグスとシェリファと同じだ。

 男の方は怜悧な美貌で、冒険者にしては線の細い体だ。切れ長の目が正面の女を睨みつけている。

 女の方はまだ少女と言えるかもしれない愛らしい顔に、しなやかな長身。小さめの尻と控えめな胸しか隠れていないと言えるほど大胆な服を着ている。


「だったらお前は追放だ!」

「はぁ⁉ そんな馬鹿げた理由で——」

「〝パーティーの和を大きく乱した〟」

「…………まさか」


 女が呆然と目を見開くと、男は口の端を歪めた。


「考え直すなら今のうちだぞ? さもなくば、二度とパーティーを組めなくしてやる」

「そ、そんなの分かんないし。和を乱しても実力さえあれば良いって人もいるかもしれないし」

「いるわけないだろ」

「もういい! 勝手にすればいいし!」

 ガタンと立ち上がり男に背を向ける。それを見て、男は嘆息した。

「そうか、仕方ない」

 すっと席を立ち食堂から出ていく彼を、女は唇を噛んで見送った。


「ちょっといいか?」

 ルグスが声をかけると、女は驚いたように顔を向けた。輝く夕陽のような薄っすら赤い黄金色の短髪が揺れる。

「……聞いてた?」

「ああ、盗み聞きしてごめん」

「謝るのはこっちだし。大声で騒いでごめんね」

「いや……えっと、もし良かったら俺たちのパーティーに入ってくれないか?」

「ふぇ?」

 目をぱちくりとさせる彼女にルグスは気まずそうな笑みを浮かべる。

「いや本当に、()()()()()()()なんだけど」

「それは願ってもないことだし。さっきの奴、幹部の息子だからやりたい放題。あたいの話は聞かずに〝和を乱したから追放〟みたいな記録を残されてマッチングが不利になるの確定だし」

「じゃあ……」

「うん、パーティーに入れてほしいし。あたいはウェーナリア・ホワンツ」

「ルグス・ノクターム。こっちはシェリファ・エスタリーだ」

「こんなに早く新メンバーが見つかるなんて、嬉しいです」

 シェリファが微笑んでウェーナリアに手を差し出す。ウェーナリアは苦笑してその手を握った。

「こんな簡単に決めて良かったの? まだポジションも戦い方も伝えてないし」

「とにかく人手が欲しかったんです。あ、私は魔法使いで専任魔法士です」

「あたいは一塁手の武闘家だし」

「じゃあぴったりですね! ルグスさんは剣士で遊撃手なんです。ところで、さっきの話……もしかして、告白を断ったら追放されたんですか?」

「その通りだし。あいつ、他の女とも関係持ってるのに」

 怒りも露わにウェーナリアが事情を話す。

「あいつ以外のパーティーメンバーは全員女なんだけど、あたい以外の全員を落としたみたい。他のパーティーにも女いるくせに。和を乱してるのはあいつ自身だし」

「理不尽にもほどがあるな」ルグスが呆れた声を出した。「まあ、追放された身どうしよろしくな」



 そうしてウェーナリア・ホワンツは〈烏の休息〉のメンバーとなった。受付で登録し、ついでにルグスが〈双猫石〉への用件伝達を申し込んだ。

 冒険者ギルドの用件伝達システムは、本部及び各支部に伝達する文言が行き渡り、訪れた伝達先の人物或いはパーティーに用件を伝達できる。今回は「新たなメンバーが入ったから試合できる」という文言だ。

 用を終えたと見るやウェーナリアが口を開く。

「迷宮行く? お互い実力見た方が良いし」

「Eランクしか行けないけど……」

「あれ、そうなんだ。困ったし。Eランク迷宮じゃあたいの強さを見せられないし」

「俺もシェリファも同じだ。隠しボスでも瞬殺してしまう。それで序列上げが急務ってことになって……」

 ルグスは新メンバーを欲した経緯を話した。シェリファが野球をあまり知らず今日まで未経験だったことは伏せて。

 聞き終えたウェーナリアはけらけらと笑う。

「シェリファったらエラーひとつで気にし過ぎだし! 逆転できなかった〈双猫石〉にも責任はあるし!」

「いえ、その……私は本当に下手なので」

 シェリファは苦笑いを浮かべてスカートの裾を握った。

「ふうん。まあシェリファがそれで良いなら良いし。にしても2人ともかなりの実力者だよね、隠しボスを瞬殺なんてさ」

「私はそれほどでも……」

「俺もそこまでは……」

 顔を見合わせ謙遜する2人。ウェーナリアは呆れたように笑った。

「目指してる迷宮はどのランク?」

「それはもちろん」「Sランクです」

 ルグスもシェリファも、何を当然のことを、というような顔をしていた。

「あたいも同じだし。それに足る実力ならもっと堂々とすれば良いし」

「うーん……それに足る実力かどうか分からないんだよなぁ。一応Aランク迷宮の浅い階層の魔物は簡単に倒せたけど、強化魔法をかけてもらってのことだからな……」

 首をひねるルグスをウェーナリアは驚いたように見る。

「Aランク迷宮に行ったことが⁉」

「ああ、元いたパーティーが序列11位までいけてたから」

「凄いし! これはますます、このパーティーに入って正解だったし!」

 今にも飛び跳ねそうな勢いで喜ぶウェーナリアだったが、ルグスは何がそんなに嬉しいのか分からなかった。シェリファも同じで、不思議そうにウェーナリアを見つめていたのだった。





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