7 結果
ルグスのホームランの後は両チームとも得点が無く、5対5のまま6回裏2アウトまで来た。
青チームの4番が右打席に立っている。ふてぶてしく投手を睨む彼は、そろそろ試合を動かしてやると意気込んでいた。
しかし赤チームの投手たる〈双猫石〉の魔法使いは、初っ端に5連発されたのが嘘のように安定したピッチングを続けている。すいすいと簡単にアウトを取って、現在40球ほど。同じく〈双猫石〉の魔法使いである捕手のリードも冴えわたり、リズムが良く守備しやすい。
打者は、初球を捉えた。
左中間の深い所に飛んでいく。シェリファとヨーストが同時に打球を追う。左翼寄りだったがヨーストが先に追いつき、三塁へ投げた。
打者は二塁で止まっていた。やってやったぞとばかりに満足そうな顔をして青チームの仲間に手を振っていた。
すぐに次の打者が打席に入る。その人も初球を打った。
ライナー性の打球が左翼へぐんぐん伸びていく。やや速いが、予め深く守っていたシェリファの真正面だ。彼女が取って当たり前のそれを、取れない可能性を考えたルグスが猛スピードで追いかけていく。
シェリファはすぐにグラブを構えた。球が吸い込まれるように迫る。
弾いた。
「っ⁉」
シェリファは愕然とする。取った、と思ったのに取れなかった球を信じられない思いで見つめる。
力なく地面を転がる球を、駆け込んできたルグスが拾って二塁へ投げた。余裕そうに走っていた打者走者はそこでアウトとなって目を丸くしていたが、1点取られてしまった。
〈烏の休息〉以外の皆は唖然とした。敵も味方も審判も、信じられないという顔でしばらく動かなかった。
この点が決勝点となり、赤チームは敗れた。
「お疲れ~、惜しかったなぁ」
試合終了後すぐ、ヨーストはルグスに声をかけた。
ルグスは申し訳なさそうな顔をした。
「俺があのレフトライナー取れてれば……」
「何言ってんだ、あんなの追いつけねえだろ。むしろすぐ取って二塁で刺したの凄かった。次の試合も頼むぜ」
「あ……うん、よろしく。良かった、チーム解消されるかと思った」
「そりゃいずれは解消するし、下手くそばかりならすぐにでも解消するつもりだったが、お前はいい遊撃手だからな。ただ……」
言い辛そうに視線を彷徨わせるヨーストに、ルグスは心得ているとばかりに口を開いた。
「シェリファのことだよな」
「そうだ。あの守備はいくらなんでもやべえ」
「ごめん、でも魔法は凄いんだ」
「お前も2人パーティーのままってつもりじゃねえだろ? 早めにもう一人、野手を入れてくれ。次の試合はそれからだ」
それがシェリファのためにもなるだろう、というヨーストの考えに、ルグスも同意せざるを得なかった。
どうやってシェリファにこのことを言うか、どう言えば傷つけないか、悩みどころだ。
「…………あれ? シェリファどこいった?」
* * *
〈黒蝶〉と〈蒼天の月〉も、別の球場で試合をしていた。
そして、12対5で敗れた。
「あー、負けた負けた。クノスがああも打てないとはね」
準備室の一角で、メロウが呆れたように呟く。
近くにいるのはフレミーナのみ。そのフレミーナは嘆息して濃桃色の髪を払った。
「当たり前じゃない。強化魔法、本当はかけてあげてないもの」
強化魔法というものは、パワーや体の強さを上げるもので、かかっているかどうかは〝かけられた人〟には分からない。そのため、「かけた」と言われればかかっていると信じるしか無く、実はかかっていないとなると感覚もリズムも狂ってしまいまともに打てなくなる。
なぜ新入りにそんな仕打ちをするのか、メロウは純粋に疑問に思った。
「ほう? その心は?」
「雑魚すぎて気に入らない。あと、ルグスとちょっと名前似てるのもムカつく。だから、〝チャンスをことごとく潰す奴〟に仕立て上げてやろうと思って。まあ、今後気に入ることでもあれば強化してあげるわよ」
「なるほど、面白い企てだ。もしや、ルグスが打てなくなったのも?」
「そう、強化をこっそりやめたのよ。だってそうでもしなきゃ、リーダーはあのエラー野郎を庇ったでしょ?」
「確かに。打力に重きを置いてるし、割と我慢してあげるしね」
「ただ、勝てそうな時にどうするかが問題ね。ルグスはとにかく追い出したかったからどんな時でも強化魔法をかけないようにしたけど、クノスはそこまでじゃないからチームが勝つのを優先したいわ。でも、肝心な時に打てたらリーダーから信頼されちゃうだろうし……」
「難しいね。私も考えておくよ」
その会話を、こっそり聞いていた者がいた。
クノスであった。
そんなに名前似てないだろ、と小さく溜息を吐く。とんだとばっちりだ。
強化魔法は欠かせない。たとえ「強化魔法をかけてない」と正直に教えてもらっていたとしても打てなかったに違いない。何しろ投手にも強化魔法がかかっていて、速球派なら180km/hくらい平気で投げるのだ。無理に決まっている。
彼はなんとかフレミーナに気に入られようと心に決めたのだった。