表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

5 チーム

 ルグスとシェリファが転送装置で冒険者ギルド南南西支部に戻ってくると、30歳手前くらいの男が待ち構えていたように声をかけてきた。

「なあ、お前ら作ったばっかの2人パーティーだろ? 〈烏の休息〉って名前つけてたの聞いてたぜ」

「あ、ああ……」

 戸惑うルグスに、男は笑みを浮かべる。

「チーム組まねえ? オレら〈双猫石〉ってパーティーなんだが今7人いるから丁度いいだろ?」

「大所帯だな、珍しい」

「どこともチーム組まずに〈双猫石〉のメンバーだけで野球できるようにするのが目標なんだ。ただ、7人になってから半年以上まったく人が入らなくてな」

 それはそうだ、とルグスは思った。

 主流は4~5人パーティー。多くても6人だ。パーティーの人数が多いと移動しにくいし、迷宮で得た物の取り分も減るし、揉め事が増える可能性もある。7人集まったのは凄いことだが、ここから更に人数を増やすのは大変困難だろう。

「だから〝いつでもチームを解消できる、なるべく人数の少ない、ランクポイント0のパーティー〟とチーム組みたかったんだ。〈烏の休息〉は丁度条件に合う! ……お前が、いつでもチームを解消することに同意してくれるなら!」

 男はそう言って手を差し出してくる。

 ルグスはシェリファに目をやった。

「俺は良いと思うんだけど、どうする?」

「良いと思います」

「じゃあ……」ルグスは男の手を取った。「ルグス。遊撃手だ。こっちはシェリファで左翼手」

「ヨーストだ。よかった、誘っといてなんだがポジション問題になったら困るところだった」

「そういえば、そういうの聞かずに乗っちゃったな。大丈夫だったのか?」

「ああ、ばっちりだぜ。オレは外野どこでも守れるが、一応中堅手をやってる。他のメンバーは、双子姉妹のバッテリーと、内野どこでも守れるのが2人と、内外野どこでも守れるのが2人いる」

「そんなにみんな色々守れるのか」

「双子姉妹以外はオレ含めて同じ少年野球チームの出でな。そん時の監督が、色んなポジション守らせる主義だったんだよ」

「へぇー……俺の所は真逆だったな。ポジション絶対固定する主義だった」

 話に花を咲かせながら受付へと向かう。チーム申請と、試合を組んでもらうためだ。


 そうして、翌日に早速試合をすることになった。相手は序列20位と23位のパーティーが組んだチームである。強豪だ。

 この試合は負けて構わない。

 ランクポイントは勝てば増えるし負ければ減る。増減するポイント数は非公開の計算式によって決まるが、〝序列の差が大きければ増減するポイント数が多くなる〟という法則がある。

 〈烏の休息〉と〈双猫石〉は共に0ポイントのため、負けてもポイントは変わらない。だから、最初により多くのポイントを得るため、なるべく序列の高いパーティーが組んでいるチームと対戦したいのだ。

 ルグスの所属していた〈黒蝶〉が僅か半年で序列11位にまで上り詰めたのも、この方法を使ったのだった。


「この後どうする?」

 ギルドから出ながらルグスはシェリファに尋ねた。

 まだ昼である。一緒に昼食でもいいし、楽しめはしないがどこかの迷宮に行くのもいい。

 シェリファはおずおずと口を開く。

「あの……グラブって、必要ですよね?」

「ああそっか、持ってない?」

「はい」

「じゃあ一緒に買いに行くか。……あ、でも俺カネ無い。今日明日の食費と宿泊費くらいしか稼げてない」

「私のですから私がお金をだしますよ?」

「あ、そう?」

 リーダーが出すものだと思ってた、とルグスは笑った。

 

 

 野球用具店の近くの喫茶店で昼食を摂ることにしたルグスとシェリファ。テラス席でのんびりと食事を楽しんでいると、突然、スタイルの良い女性が駆け寄ってきた。

 彼女を見たルグスは思わずガタッと立ち上がる。

「姉ちゃん⁉」

 その声に女性は答えず、ニヤリと笑って腰に佩いた剣に手をかける。

「えっ、まさか、ちょっ、今食事中……!」

 ルグスは狼狽えながらもしっかりと反応した。

 ガキンッと2つの刃が音を立てる。

「聞いたぞルグス。パーティーを追放されたそうじゃないか」

「どこでそれを……! ってか姉ちゃん、食事中はさすがにやめてくれない⁉」

 晴れた真昼の空の下、剣戟の音が鳴り響く。刃が幾度も重なった末、女性の剣がルグスに突きつけられた。

「ふぅん。また腕を上げたな。順調で何より」

 そう笑う彼女はローディア・ノクターム。ルグスの姉であり剣の師だ。4人兄弟の一番上である。

 ルグスは渋面を浮かべて嘆息する。

「姉ちゃん、いつもいつもいきなり斬りかかってくるのやめてくれ。シェリファがびっくりしてるだろ」

「もしかしてデート中? だったら悪かったね」

「…………デートじゃないけど」

「なら別に良いじゃないか」

「あ、あの……」横からシェリファが遠慮がちに声をかける。「ルグスさんのお姉さん? なんですか?」

「ああ。そう言う君はルグスの何だい?」

「今日パーティーを組んでもらった者です……」

 どこか気圧されたような様子のシェリファ。彼女にルグスは渋面のまま姉を紹介する。

「姉ちゃんは俺と同じく剣士で遊撃手の冒険者で、序列2位のパーティーにいるんだ」

「今日は1位だ!」

「ごめん。えっと、1位と2位を行ったり来たりしてるパーティーなんだ」

 シェリファはもたらされた情報を咀嚼して、目を丸くした。

「す、すごいですね……!」

「うんうん、素直でいい子だ。それに引き換え〈黒蝶〉の奴ら、ワシの弟を追放するとは不届きな」

「姉ちゃん、変なことするなよ?」

「しないよ。ちょっと偵察してみたが、何かする価値も無い」

 ローディアは肩を竦め、「じゃあまたね」と立ち去った。

 それを見送ってから、ルグスは大きく溜息を吐く。

「ったく……」

「仲いいんですね」

「うーん……まあ、悪くはないかな」

 2人して微笑みながら食事を続けた。


 その後、野球道具店で外野用グラブを購入。シェリファは使い方も分かっていなかったのでルグスが丁寧に教えたのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ