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4 新たな遊撃手

 その頃、ルグスを追い出したパーティー〈黒蝶〉は、冒険者ギルド南南西支部内の一室にて新たな遊撃手と対面していた。

「どうも、クノスっす」

 軽薄な印象の青年である。マッチングシステムによってセッティングされた機会にあぐらをかいているような、真剣さの無い様子だ。

 〈黒蝶〉のリーダーたるヴィクタルは、ギルドから渡された資料に目を落とす。

「クノス・フィシェル。前は序列50位くらいのパーティーにいたのか……双剣使いで、5年ほどずっと遊撃手で、エラーは片手で数えるほど……なら充分だな」

「えぇ⁉ そんな簡単に決めるの⁉ 優良物件ならフリーで転がってるわけ無いじゃない!」

 少女が可愛い声を荒らげる。手にした杖を苛立ち紛れに床に打ち付け、濃い桃色の髪を振り乱し、金の瞳でクノスを睨みつける。

「だいたいさっきから、あたしのこと変な目で見てるでしょ!」

「フレミーナ、落ち着くんだ」

 ヴィクタルが宥めにかかると、彼女は大きく嘆息してから黙った。

 リーダーに従順なフレミーナに代わって、黒髪の美女がクノスへ不審そうな目を向ける。

「フリーになった理由が書かれてないけど? 性格に難があって追放されたとかじゃないだろうね?」

「それは安心してほしいっすね。ちょっとうっかり隠し部屋に入っちまってオレ以外全滅しただけなんで」

 クノスはにやにやと笑みを浮かべ続けている。このねーちゃんも良い女だな、などと思っていそうな顔だ。

 絡み合う視線を遮るように、ヴィクタルが立ち上がる。

「メロウも、そう突っかからなくていいだろう。斬撃を繰り出せる遊撃手なんて限定的な条件に合う奴、そうそう転がってない。それともルグスの方がマシだったと思うのか?」

「まさか。ルグスは最悪のエラー野郎だ。クノスがエラーしないなら、それで充分さ」

 メロウはそう肩を竦めた。ヴィクタルは満足げに頷く。

「ではクノスを〈黒蝶〉に入れる。早速だが迷宮に行こう」

「えぇー?」

 面倒くさそうな声を漏らすクノス。

 フレミーナが杖で床をドンッと鳴らした。

「あんたの実力を見てやろうっていうリーダーの心遣いにその態度は何?」

「あ、いやー……行くっす。喜んで」

 クノスの笑みが少し引きつった。



 そういう訳で迷宮に来た〈黒蝶〉の4人。元々組んでいる3人は意気揚々と、クノスは緊張気味に中へ入る。

 彼らの挑める中で最高難度のAランク迷宮だ。クノスにとっては初めてのAランク。活躍できる自信は全く無い。

「ぼさっとせず、さっさと歩きな」後ろから矢と声を放つメロウ。

「前衛のくせにトロいわね」更に後ろから強化魔法と声を届けてくるフレミーナ。

「そろそろ大量に来るぞ」後ろを振り向きもせず、打撃耐性の無い魔物を巨大な盾でぶん殴って倒しながら歩くヴィクタル。

 クノスは、腰に佩いた二振りの短剣に手をかけた。

 抜いてみる。双剣士としていつも通り戦うだけだと自分に言い聞かせ、前を向く。

 魔物の群れが押し寄せてきていた。小さな狼のような姿の魔物だ。

「…………やっぱ無理っ」

 一歩後ろに下がるクノスの前で、ヴィクタルが盾を立てた。

「こいつらは斬撃しか効かない。やってもらわねば困る」

「そうよそうよ! これだけ強化魔法かけてあげてるんだからとっとと倒しなさいよ!」

 フレミーナの言葉にハッとする。そうだ、いつもCランク迷宮で戦っていた時は、強化魔法をかけてもらっていなかった。それを考えれば、Aランク迷宮の魔物だってきっと倒せる!

「っしゃあぁ!」

 盾の横を抜けて、魔物の群れに突っ込んだ。

 双剣が閃くたびに魔物が魔石となっていく。魔物の牙が、爪が、方々から迫ってくるが、矢と魔法が守ってくれる。

 夢中になって双剣を振い続け、最後の一体を倒したクノスは、息を切らしてへたり込んだ。

 その様子を見て、他の3人は呆れたような顔をする。

「あまり期待はしていなかったが……それにしても弱いな」

「ほんっと信じられない。時間かかりすぎよ。エラー野郎のルグスですらもっとすぐ倒し切ってたのに」

「危なっかしいったらありゃしない。私たちが援護しなけりゃ6回くらい死んでたよ。これくらいならルグスは援護無しでいけたんだがね」

 彼らの言葉を聞いて、クノスは呆然とした。

「ど、どんだけ強かったんっすか、そのルグスって人は」

「え? 別に強くなかったわよ。あたしの強化魔法をもってすれば誰でも普通にあのくらい出来るはずなのに、あんたってば雑魚すぎ!」

「えぇ……?」

「何よその反応は! あたしが嘘ついてるとでも⁉」

「思ってないっす。すんません」

 とりあえずフレミーナには逆らわないのが吉だな、と苦笑いしたクノスだった。




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