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10/20

10 さあ、試合だ

 次の日に〈双猫石〉主導で試合が翌日に組まれ、その翌日。


 前回の試合と同じ南南西支部の球場に〈烏の休息〉と〈双猫石〉のメンバーが集まった。対戦相手も既にいる。くじが行われ、ルグスたちのチームは後攻たる青チームになった。


「へー、一塁手か」

「そうだし。他のポジションはダメダメだけど、一塁だけは完璧に守れるし」

 ヨーストとウェーナリアは顔合わせがてらに喋っていた。

「一塁だけ上手いタイプか。分かった、じゃあ……」

 自パーティーのメンバーに指示を始めたヨースト。それが終わるとルグスに声をかける。

「お前は今日1番やってみろ」

「え、俺が⁉」

「何をそんなに意外そうな。足速えんだからハマるだろ」

「前のパーティーの時は7番か8番しか打たせてもらえなかったから。出塁率低いし」

「そうなのか。まあその辺はあんまり気にしねえから良い感じによろしく」

 軽い口調でそう言って、ヨーストは審判団の方へ行った。

 スコアボードに打順等が表示されていく。ウェーナリアは9番になったらしい。

 試合が始まる。


 先日の試合とは打って変わった静かなスタートだった。1回、2回ともに両チーム3者凡退。3回は青チームの7番が四球で塁に出たが、8番が併殺打で結局3人で終わった。

 4回表は流れが変わった。

 赤チームの1番が初球を鋭い当たりのヒットにし、次の打者が打席に立ってバントの構えをする。〈双猫石〉の投手が念入りに牽制していると、悪送球してしまった。二塁に行かれ、直後に打者に投げた球を長打にされた。走者は悠々と生還。なおノーアウト二塁のピンチだったが、その後はしっかり抑えて切り抜けた。

 先制された後の4回裏、ルグスは先頭として何とか出塁しなければと思っていた。もちろん1回の時も思っていたが、一層強い気持ちで左打席に入った。

 構える前にベンチへ向けて手を動かす。シェリファと昨日決めたサイン。強化魔法を解除してもらうサインだ。

 シェリファが頷くのを見届けてから、ルグスは打つ気満々のような顔で構えた。

 その、初球。

 すっとバットを横にして、一塁側へ軽く当てる。セーフティーバントだ。相手チームは全く予想していなかったようで、慌てて前に出てくる。

 ルグスは成功を確信しながら一塁を走り抜けた。足を緩めて後ろを振り向くと、球を処理しようとした一塁手がもたついている。それを見て二塁に向かおうかとした時に球を投げてきたので慌てて一塁に戻った。

 上手くすれば二塁まで行けていたかもしれないが、何はともあれ成功だ。

 ふぅ、と息を吐き、打席を見る。2番打者が左打席に入るところだった。前の試合でも2番を打っていた〈双猫石〉の内野手だ。前は一塁手で今回は三塁手の彼は、ルグスと目が合うや否や「盗塁」と口を動かした。

 もちろん声には出していないが、相手投手も見ていただろう。ルグスは苦笑してリードを大きく取るが、案の定牽制球が飛んできた。

 一塁に飛び込む。余裕でセーフ。思ったほど牽制の球は速くなかった。

 またリードを取る。すぐ戻れるように小さなリード。もう一度牽制が来ると思っていたが、投手は打者に投げた。ワンバウンドしそうなフォークボール。一塁に戻っていたルグスは打者に睨まれた。「さっきのは盗塁できただろ」と言わんばかりに物凄く睨んできていた。

 それはその通りなのだが、こうも警戒されていては難しい。などと思っているとまた牽制球。今度は速い。間一髪セーフ。

 もうどうにでもなれ、と半ば投げやりな気持ちになったルグスは、次に投手が球を投げそうな動きをした時にスタートを切った。牽制だったらアウトになってしまうところだが、幸い投手は打者に投げていた。

 だが球種はストレート。取った捕手がすぐ二塁に投げる。タイミングは余裕でアウトだし、走路の良い位置に球が来た。ベースカバーの遊撃手がそれを取るのが見えた。

「っ……」

 体を捻る。もしこれが魔物の攻撃だったら。躱さなければ死ぬようなものだったら。そんなもの、絶対に食らわない。避けながら肉薄して斬ってやる。

 剣士としての矜持がルグスを動かしていた。極限の集中力を呼び覚まし、体の全てを「何にも当たらず二塁に達する」ためだけに機能させていた。


「セーフ!」


 二塁塁審の声で、ルグスは我に返った。塁に手を置いた状態で倒れ込んでいた。背中にグラブが当てられている。

「信じらんない。これを避ける?」

 呆れたような少女の声が降ってきた。彼女が赤チームの遊撃手である。際どくはあったが判定通りセーフで間違いないと確信している様子で嘆息した彼女は、グラブをルグスの背から離して逆の手を差し出した。

「ほら、早く立ちなよ」

「ああ……ありがとう」

 ルグスは半ば茫然としながら手を取って立ち上がった。打席の2番打者が薄っすら笑みを浮かべて見てくる。そして彼は、投げられた低めのボール球を思い切り引っ張った。

 強烈な打球が地面すれすれを飛んでいく。それを見たか見ないかのうちにルグスは三塁へ走る。打球は一二塁間を抜けたが、前進守備をしていた右翼手が走り込んで取って一塁へ投げた。矢のような、という表現では不充分なほど速い送球が一塁上で待つ選手のグラブに収まる。

「アウト!」

 ライトゴロだ。

 ルグスは三塁上で苦い顔をした。還りたかったところだが、ああも良い守備をされれば流石に無理だ。まだ1アウトとはいえ、好機を逸したような気持ちになった。

 明らかに投手の雰囲気が変わっている。1点もやらないと、気迫が場を圧している。

 殺気にも似た張り詰めた空気が内野を支配していた。




 

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