玉姫
mixiで8年前に公開した小説です。
マイミクがさらっと登場人物の設定だけ公開し、その設定から話を膨らませました。そのマイミクも設定の使用を認可の上で、小説は私のオリジナルと認定されています。
マイミクのオリジナルの世界観の一部から妄想を膨らませて書きました。彼の作品を読まなくても読めるように書いてます。
時代は定かでない。
フェンデルクセン王国。ネバーガイアのユーロピア地方に位置する、歴史ある王国だ。騎士たちが荘園を持ち、その荘園を統べるのがフェンデルクセンの国王である。ユーロピアでも広大な版図を誇り、フェンデルクセン国王の権力は有力だ。
フェンデルクセン国王には娘がいた。名前をルナシーという。歳は15、国王と正室との間に授かった唯一の子で、フェンデルクセンを継ぐ女王となる身だ。
父である国王は娘を溺愛し、母である女王も乳母を用いずに自らで娘を育ててきたほど。高齢で授かった子供ゆえに、その愛の注ぎようは多大なものであった。
娘のルナシーは父親譲りの頭脳明晰さであった。4歳で読み書きを完璧にし、わずか10歳で高等数学、化学、生理学、史学の入門書を理解したほどだ。同年代の諸侯の子女が英雄譚やお伽噺ですらほとんど理解できないのに比べると、ルナシーは才女といえる。
母親からは美貌と慈愛の心を譲り受けた。髪は、遠くの王国からもたらされる絹糸のように滑らかな指通り。朝日の光のように目映い、金色の髪。大清の白磁よりも白く美しい肌。砂漠の王国で産み出される乳香より芳しい香り。とにかく、百の吟遊詩人がルナシーを形容しようとも、言葉が見当たらないほどの美しさであった。
ルナシーの性格は容姿や才能、ましてや身分によって相手を見下すようなことはしなかった。誰とでも壁を作らずに接する性格は家臣や騎士、使用人や領民にすら愛されるものであった。これも母親譲りの慈愛だ。
ルナシーの自室。天蓋付きベッドや、丸みを帯びた調度品があしらわれている。花が好きなルナシーは部屋に季節の花を生けており、部屋中に花の香りが満ちている。
「ねぇ、マイス」
「何でしょうか、ルナシー様」
花の手入れをしていた、ルナシーと同年代くらいの少年がルナシーを見る。
「その、堅苦しい言葉遣いはやめて。様もつけなくていいから」
「いえ、そうはいきません……」
再び、花の手入れに移るマイス。
「堅苦しい言葉遣いは侍女だけにして、あなただけは気軽に喋りなさいよ」
「……僕はその侍女様方より、身分が低い奉公人ですから尚更です」
「あなた、身分に囚われてるの? 5年間も私の部屋に出入りする殿方は、侍女よりも身分は上よ?」
「お戯れを。ルナシー様」
「……可哀想なマイス。あなた、眼を患っているのね」
「仰る意味が……僕は盲人ではありません」
「いいえ、マイス。あなたは何も見えてないわ。マイス、私は誰かしら?」
「フェンデルクセン国王陛下と女王陛下の御子、ルナシー姫で在らせます」
「ほら、何も見えてないわ」
「あの……僕はルナシー様の仰ることが…………」
「良いこと? ここは私の部屋。パパもママもいらっしゃらない。マイス、あなたの背後でベッドに腰を掛けているのは誰かしら?」
「ルナシー姫です」
「半分正解で半分不正解よ」
「はい?」
ベッドに振り向くマイス。部屋着でベッドに腰を掛けるルナシーが嬉々として笑っていた。
「もうすぐ16歳になる、ルナシーって女が模範解答よ」
「あの……ますます、意味が」
「王宮でもね、この部屋だけが治外法権なの。パパとママが手出しをできない場所よ」
「それで、その……?」
「あなたの雇い主はパパでしょ? 治外法権の場所にいるあなたは、ただの男の子」
「ただの、男の子……?」
「そう。ただの女と男の子同士、堅苦しいのは無しにしたいの。ねぇ、マイス?」
「は、はぁ……ルナシー様」
「言葉遣いは長年に渡って染み付いたものだから仕方ないとして、ルナシーって呼び捨てにしてちょうだい?」
「そ、そんな!」
「あまり権力は使いたくないけど、命令よ。この部屋では私が女王、私をルナシーと呼びなさい」
「か、畏まりました……」
剪定鋏を置くマイス。
「ねぇ、マイス。私、あなたのことについて聞きたいわ」
「ぼ、僕のことですか?」
「そう。あなた、5年前にパパからの紹介で来てから、何も私に語ってくれなかったじゃない? だから、マイスのことが知りたいの」
「分かりました……大したことではありませんが」
「大したことでなくても、私はあなたのことなら構わないの。お花はいいから、私の隣に座って話して」
ルナシーは自らの隣、ベッドの上を差した。