Function 008: [info] 海馬:キャッシュからデータを読み込みました。
<【警告】5G接続者の反応を検知 >
敵襲。
近くにいるのか。
周りを見渡すと、寝ている間に乗客が何人か入れ替わっていた。
全ての把握は不可能。
さすがに目を開けて寝る機能は搭載されていないだろう。
白鈴を頼ろう。
「白鈴、接続者が近くにいるみたいだ。そちらで把握できるか?」
反応がない。
「白鈴、緊急事態だ。力を借してくれ。」
沈黙が続く。
異常事態だ。
インターネット回線の接続を確認する。
画面情報のタスクバーに、それらしいアイコンを発見した。
それを開いてみると、接続状態は正常。
ネットワーク名は "TTRSRN05314"。
初めからこのネットワークに繋いでいたのかどうか、俺は分からなかった。
そもそも、最初の状態を確認していないので、変化があっても気づけない。
ただ、野良Wi-fiに自動接続された、というわけでは無さそうだ。
アイコンにはご丁寧に"5G"と書かれている。
判断する方法が思いつかないので、ネットワークが偽物でないと仮定して考える。
こちらの心の声が届かなくなっている?
白鈴との間の接続が遮断されている?
白鈴が攻撃を受けている?
白鈴が、殺された?
勘弁してくれ。
俺は白鈴に直接、助けてくれてありがとう、って言いに行かなきゃいけないんだ。
やっと彼女のことを知り始めたばかりなのに、これで終わりだなんて、絶対に嫌だ。
考えるな。
他の可能性を考えろ。
でも、俺はどうすればいい。
5Gに接続できるからといって、俺は何にも知らないし、俺だけじゃ何もできない。
俺は、何も勉強して来なかった。安易な気持ちのまま、この旅に出た。
いや、泣き言を言っている場合じゃない。
自分が今持っている力だけで、なんとかするしかない。
とはいえ、俺は全くこのOSの使い方を知らない。
どうすればいいのかが、全くわからない。
とりあえず、痴漢野郎との一件で使用した、通信解析ツールを起動する。
グラフィカルでわかりやすい画面。
うまくUIが作られているので、俺でも使えそうだ。
現在の近距離無線通信の接続は "なし"。
”ネットワーク状態” タブがある。
現在の通信状態を示す系統図が表示されており、ご丁寧に”通信内容の信頼性”という項目もある。
信頼性:99.99%以上。
現在の送信パケットと、受信パケットの情報。
ディスクへの書き込み状況。
待て、ディスクって何だ。
俺の肉体には、高速回転するディスクまで搭載されているのか。
まあいい。
ただ、俺にできそうなことが、画面を見渡す限り、インターネットとバックギャモンくらいしか見当たらない。
FireF〇xで、Lin〇xの使い方を調べよう。
Lin○xには大きく分けて、Ub〇ntuや、Debi〇nというバリエーションがあります。
これをディストリビューションと呼びます。
いかがでしたか?
内容が薄い。
そして、初心者の俺は、何を調べれば正解にたどり着けるのかがわからない。
いかがでしたか?
いかがでしたか?
いかがでしたか?
はらわたが煮えくり返る。
これが、フィルターバブルの力なのか。
いや、各々が利益を追求していった結果、自然にこうなったんだ。
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違う。
昔は、もっと、簡単に情報に辿り着けたはずだ。
インターネットは、もっと、無秩序だけれど、互助精神に溢れていた場所のはずなんだ。
どうして、こんなことになったんだ。
X***3**gf*F*********.ru
a*dFs*ff*F*3********.ro
EmR*o*f*ery********.xyz
検索結果の3ページ目以降は、リダイレクトとスパムだらけだ。
個人のブログ等から文章を引用しているので、思わずクリックしてしまいそうだ。
普通のPCであっても危険なのに、この肉体でこんなものを踏んでしまったら、一体どうなってしまうんだ。
このインターネットは、危険だ。
もうインターネットは、俺がかつて経験したあの自由な遊び場ではなくなっていた。
ここは、悪いインターネッツですね。
他の案を考える。
情報の信頼性が高そうなのは書籍だが、電子書籍を買ったとして、この状況下で本をまともに読む時間があるとは思えない。
いや、違う。
もっと視点を変えてみよう。
もっと他の方法で、敵を見つける手段があるはずだ。
高度な機能があるからといって、それだけを使うことに集中すると、いつの間にか手段が目的に置き換わっていってしまう。
もっと、広く視野を持つことを意識してみる。
そうだ。
警報が鳴ったはずなのに、この画面には、何一つ、異常な点がない。
いくら初心者が手に出すOSでないにしろ、生命の危険を知らせるための警報装置なのに、自動で表示を消すアプリケーションが存在するか?
警告を出したら、普通、確認するまで何かを表示させ続けるはずだ。
つまり、あの警告が偽物だったか、あるいは、今見ているこの画面自体が、偽物である可能性もある。
画面が偽物。
画面が偽物。
画面が、偽物?
「通信解析」アプリの表示画面を確認する。
ウインドウを閉じるためにいつもの場所に脳内マウスカーソルを合わせても、反応しない。
そもそも、ここには、アイコンが存在しない。
なんで、今まで気づかなかったんだろう。
このアプリケーション、"閉じる"ボタンが、右側についている。
確か、記憶では、M@cみたいに左に
『ワタル!助けに来たよ!』
突然、白鈴の声がした。
元気な声だ。
良かった。
良かった。
良かった。
良かった。
本当に、良かった。
白鈴は、生きていた。
人の声を聞いて、こんなに嬉しかった経験はない。
「白鈴、来てくれると信じてた。ありがとう。実は、今」
『今はそれを話している場合じゃない!今すぐ、私の指示に従って!』