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Function 004: [info] 近距離無線通信規格に準拠したデバイスです(IEEE 802.15.1)

注記 【2/26追記】############################################


この物語の中では回線を切らないように指示をしていますが、

これは物語上の演出です。


マルウェア(ウイルス)が侵入して来ている恐れがある場合、

対処の方法がわからない場合、回線を切って、専門家の指示に従ってください。


情報セキュリティポータルサイト【IPA(情報処理推進機構)】

https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/accident/index.html


############################################

白い流線型の車両が滑らかにそのスピードを緩めていく。

風と音が、ホームに立つ俺の身体を包み始める。

いくつもの窓が目の前を通り過ぎて行ったが、その通過速度は次第に遅くなり、やがて、停止した。


毎日、博多から東京を何度も往復するこの車両は、きっと少しだけ普通の時間より遅くなった時の流れの中に存在しているんだろう。


自由席は1から3号車。

席が空いていないとき、どちらの車両にも移れるように2号車後方から乗車した。

客の数はまばらで、車両を移らなくても席に座れそうだ。


2列シートの窓側、E席に座る。この席は富士山が良く見える座席だ。

静岡まで起きていられるかはわからないが、「見ることができる」というのが重要だ。

先に椅子に座ることができなければ、権利を勝ち取ることなんてできやしない。

後ろの席に人は居ない。思う存分席を倒すことができそうだ。


<東京行のぞみ145号、発車します。>


車両が動き出す。


自動音声のアナウンスが旅情を掻き立てる。

懐かしい感覚だ。久しぶりの新幹線。


「新幹線に乗った。9時24分発、のぞみ145号。」

『りょ。何か変わったことはある?』


「乗客の数が少ないくらいかな。」

『このご時世だからね。でも、警戒を怠らないで。』


「気をつけることはある?」

『敵からの物理攻撃に気を付けて。ネットからの攻撃は私が監視する。あと、通信が途切れるかもしれないけど、新幹線のWi-fiには繋がないこと。回線のセキュリティを担保できない。』


「りょ」

『あと、どんなときでもこの回線を切ってはいけない。あなたをサポートすることができなくなるから。それと、今は理由を話せないけれど、とてもマズいことになるってことだけ覚えておいて。』


「途中で回線が途切れたらどうすればいい?」

『少しの時間だけだったら問題ない。人間の肉体は広域網、4G接続もサポートしてるから、長時間通信が途切れる可能性は少ない。マルウェア(ウイルス)に侵入されたとき、回線を自分で切ったりしないでね。』


「心得た。4GにもWi-fiにも対応してるのか。人間の身体って凄いな。」

『人体にはまだわかっていないことの方が多い。そもそも、4Gや5G等の移動体通信やWi-fiの技術は人体を解析して生まれたものだとも言われている。』


なかなかパンチのある言葉だ。

これを受け流すことができるようになったとき、俺は真の5G接続者になることが出来るんだろうな。


座り直すフリをして、席から見える範囲を見渡しておく。

前の席には女性が一人。後ろは誰も居ないことを確認している。横3列シートにはノートパソコンを広げているビジネスマンが一人だけ。

斜め前には大学生風の男一人が座り、斜め後ろ側に、今、家族3人組が席に座り始めた。

残りの座席には大体シートごとに一人づつ。チラホラとシートまるごと空席の場所がある。


この状況下で物理攻撃を受けるとすれば後ろ側からか。

後ろ壁際の席は埋まっているから、移動は諦めよう。

人の気配を察知する能力には長けているつもりだ。油断しなければ大丈夫だろう。


そもそも、敵は俺の存在を知っているのか。

「白鈴、東京に行くことを知っているのは白鈴と俺だけだと思うんだけど、敵は俺たちの動きを知っているのかな。」

『計画までは知られていないとは思う。でも残念ながら、最初に侵入された時点であなたの個体識別番号やMACアドレスは敵にバレてる。それに、接続者(コネクター)の身体は常に2.4Ghz帯の電波を送受信している。だから、周囲の接続者を識別できる。』


俺の位置は敵から丸見えってことか。

ここまで不用心に来たが、大丈夫だったんだろうか。

これは思った以上に危険な状態だ。


『安心して。逆に言えば、敵が近ければこちらからも検知できる。アラートも鳴る。ネットワーク経由の攻撃は私の方で防ぐことができる。まず問題ない。』


嫌な予感がする。


「普通の人間、接続者でない人物が俺を尾行している可能性は?」

『ありえなくはない。一応、あなたがここに来るまでの間、道中のカメラをハックして尾行がないかを確認していた。何か気配はあった?』

「同じ人間がずっと着いてきてたら、さすがに気づくはず。そんな人間は居なかったと思う。」

『こちらで確認した映像でも、確認はできなかった。』


「ところでさ、俺の視覚情報も見てた?」

『あー、ええと、ごめん。なるべくは見ないように、とは思ってたんだけど。カメラが無いとこもあったから……』


ああ、これは。見られたな。


「お土産、どう思った?」

『……なにこれ、って感じだった。』

ああ。

『でもフォローの品を用意してる所はセンスある。』

「よし。大成功。」

『……ああ、なんか、本当にごめんなさい。実は昨日から、ずっとあなたの目、借りてたんだ。伝えておけば良かったね。』

「俺の身を守るためにやってくれたんだろ。見守ってくれてありがとね。でも、今度からは教えてくれよな。次はもっと驚いてくれるような演出を仕込みたいんだ。」

『……うん。』

「俺は5Gに接続できるだけのただの人間。白鈴の支援が頼りだ。これからもよろしくな。」


さて、警戒するとはいえ、何もやることがない。

とりあえず弁当を食べよう。

包みをあけると、海苔巻きの三角おにぎりが2つ、唐揚げが3つ。キャベツと枝豆、そしてオレンジ。

俺がいつも買う弁当。

これを食べると、旅をしていることを深く感じられる。

割り箸を横にし、上下に割る。

お茶のキャップをあけ、少しだけ、口に含む。


『あのさ、目、覗いてもいい?』

弁当が見たいのか。こいつかわいいな。

「いいよ。見せびらかしたいと思ってたところだ。うまそうだろ。実際うまい。」

『派手さはないけど、確実に美味しいものが詰まってておいしそう。それって東京でも買えるの?』

「残念ながら、地元の店の弁当だから東京にはないな」

『そっか。また感想を教えてね。』

食べ物に興味があるタイプか。東京の美味い飯屋でも探してみるか。


ああ、久しぶりに食べたが、やはり唐揚げが美味い。

上品な味付けで、くどさがない。

海苔に包まれたおにぎりも美味い。絶妙な塩加減。

中身は昆布だ。

沢庵で口を中和し、お茶を流し込む。

旅の始まりにふさわしい、幸せな食事だ。


それからしばらく、幸せを咀嚼し、堪能していた。

窓には山あいの農村が映し出される。

そして、長いトンネルに入った瞬間、事件は起こった。

「うわあああ!」

『どうしたの!?』


しまった、AirDr○p痴漢だ!

俺の視界がエグめのエロ画像で覆われる!

俺の身体には近距離無線通信機能(BlueTo○th)まで搭載されていたのか!


「攻撃を受けた!ああ、くそっ。内容を君に話すことは出来ない。でも何か、視界が塞がれている。」


『こちらからはあなたの状態が把握できない。詳細がわからなければ対処のしようがない。教えて。』

「遠隔でエロ画像が送られてきた。視界を閉ざされた。」

『エロ画像……しまった、迂闊だった。私の力じゃBlueTo○thによる通信を防げない!逃げて!』


視界が塞がれている。これでは立つこともままならない。

この間にナイフでグサリはまずい。

足音に警戒しろ。聴覚を最大限に活かす。


ああ!だめだ、大音量でポルノビデオの音声が流れ始めた。

「白鈴、マズい。聴覚もやられた。」


<<ごきげんよう。愚かで盲目なる者よ。逃げようとしても無駄だ。そして、さよならだ。>>


誰か割り込んできたぞ。

これは、もう駄目かもしれない。


『落ち着いて。BlueTo○thの速度はそんなに早くない。データを転送しているプロセスを見つけてキルすればいい。』

「Lin○xは使ったことがないんだ!」

『大丈夫。私がついてる。"シェル"ってやつを開いて……そう、上手くできた。……もう時間がない。そこに"sudo bash RoTC.sh"と打ち込んで実行して。』


落ち着け。俺ならやれる。

こんなところで躓いてたまるか。


エロ画像の表示が消えると同時に、視界がぼやけてきた。

ポルノ音声が止まると、キーンという耳鳴りが頭の中に響いてきた。



 User@Wataru :~$ sudo bash RoTC.sh

 [sudo] ************

 

 ^^^^^^ River of Three Crossings

         @YandereHardcore ^^^^^^

 

 "U r still alive. DON'T PANIC ! "




なんだ どうした なにもみえなくなった

かんかくがない なにもかんじない なにもきこえない

しんぞうは うごいているのか

わから

ない






どれだけのじかんがたった


ここはまっくらだ


たのむから ここからだしてくれ


だれか





暗黒の暗闇に光がさし、死の静寂に新幹線の走行音が帰ってくる。

永遠とも思える感覚の後、俺の意識は回復した。

時計をみると、時間は1分も経っていない。


「今のは!?」

『大丈夫。生命維持に必要なプロセスごとまとめて殺してしまったから、システムが一時的に停止してただけ。今は正常。敵の姿は見える?』

「周囲に変わった様子はない。後ろの座席も空席のままだ。……死んだかと思った」

『実際、心停止してるはず。また経験することになると思うから、慣れて。』


心停止という言葉に胸がざわつく。肝が冷える。文字通り。

これはまずい。敵がシステムに侵入してきたら一発アウトだ。

先程まで胸に抱いていたワクワクが急激に失われていく。


『安心して。脳幹の機能が動いてる間は大丈夫。OSがやられてもしばらくは生命維持機能を保ってくれる。でも、停止時間が30分を超えると危険。だから、その間になんとかしなきゃいけない。』

「俺が死んだら、灰は海に撒いてくれ」


30分。先程の1分ですら長く、苦しかった。

俺はそれを耐えることができるだろうか。


『お骨を拾いに行くつもりはない。ところで、さっきの攻撃のときリアル肉体で叫んだりしてないよね?』

「なんとか耐えた。場所がバレるようなことはしていない……と思う。」

瞳孔が拡がって、震えてたことを見られていなければ。


『やるじゃん。警報が鳴らなかったことを考えると、敵はPCやスマホから攻撃を仕掛けてきている可能性がある。怪しい動きがないか警戒して。』

「見える範囲内には普通のビジネスマンや、家族連れ。あとはイヤホンをしてる学生くらいしか見えない。通信ログから端末を割り出せるか?」


『デスクトップにある"通信解析"アイコンを押して。そう。BlueTo◯thのタブから、"HCIダンプデータ"を選択。オーケー。"解析"ボタンを押したらそのファイルが私にも送られてくる。』


テキストデータなので、書き出しと転送は一瞬で終わる。

白鈴も光の速さで回答を導き出す。


『MACアドレス 06:2E:56:8B:96:6C』

「だめだ、そのアドレスは見つからない。」

『一旦通信を止めてるか、違う機器でつなぎ直しているかもしれない。慎重なヤツね。』


『近距離通信の最大通信範囲は100m。でもそんなに離れたら実際には通信が途切れてしまって転送速度が極端に遅くなる。高速で移動してる車内なら尚更。敵はあなたを確実に殺したいと思っている。死を目視で確認するためにも近くに座っているはず。』


「……よし。見分け方を考えてみる。」


通信を安定させるため座席は近いはず。

この場合、敵はこの車両、あるいはその前後の車両に位置していると考えられる。

いずれにせよ俺の死を確認しようと思ったら、席を立つ必要がある。


次の停車駅まではあと30分程度か。今、席を立つ理由があるとすればトイレくらいのものだ。

俺の車両は2号車。前の3号車と後ろの1号車にそれぞれトイレがある。


トイレが進行方向前側に位置していることを考えると、後ろの車両からこちらに来ることは不自然だ。

1号車は除外。

この車両と前側の3号車が怪しい。


3号車の状況は把握できない。まずはこの車両に絞ろう。

ここは自由席。どこに座るかは決まっていない。


俺より後から座席に着いた人間。俺の姿を視認していることから、1号車側から乗車したか、ホームで並んで待っていた乗客。覚えている限り、斜め右後ろの家族連れ。それ以外は覚えていない。


……くそ、完全に油断していた。こんなことになるならもっと周りを良く観察しておくべきだった。


待て、乗務員が犯人という可能性も考えられる。これなら怪しまれずに座席を確認することができる。

まいったな。わからなくなってきた。俺の頭は推理に向いていない。探偵になる夢は断たれた。


わからん。無理だ。


「俺の推理力では犯人を見つけることは難しそうだ。」

『ちょっと!命がかかってるんだよ!私も頑張るから、諦めないで。』




「……大丈夫。方法は思いついた。」




「もう一度、敵の攻撃を受ける。システムに侵入される前に、相手のBlueto◯thをハック仕返すことはできるかな。」


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