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Function 003: [info] デバイス:スマートカードリーダの接続を確認しています...

歩く違法無線局となった俺は最寄りの新幹線駅へと向かう。

5G接続済みなので、地図サイトを使ったナビゲーション機能も使える。

まったく、なんて便利な身体なんだ。

これは人をダメにする機能だ。

アゴの退化の次には、方向感覚の退化が待ち受けているんじゃないか。


白鈴に家から出たことを伝えると、『りょ』の2文字だけが返ってきた。

省エネ世代だ。文字の数まで節約して環境に配慮している。


新幹線駅に行くまでには乗り換えが2回ある。

まず、最寄り駅までのバスに乗る。

『このバスはXXX経由XXX駅行きです。』

カードリーダーにスマホをタッチ。

最近はスマホ一つあれば簡単に乗り降りができる。とても便利だ。

電子音が鳴ったことを確認し、後ろの方に空席がないか探す。

幸運にも後ろから2番目、通路側の席が空いていたのでそこに座る。

5Gは使えても、俺の三半規管は低スペックだ。

バスの揺れには耐えられない。助かった。


バスに揺られながら、外の景色を眺める。

天気は曇り。太陽光が雲によって遮られている。

雲の隙間から漏れ出た光が街を照らしている。




ポエミィな気持ちでぼんやり過ごしているうちに、家からの最寄り駅に着く。

自動改札を抜け、最寄り駅から新幹線駅へと向かう電車に乗車する。


闇の評議会。実在するんだろうか。

導命院白鈴。何者なんだろうか。


脳内FireF○xを使って陰謀論の内容を調べる。

色んな説があるが、どれも「情報操作に惑わされるな」だとか「これが真実だ」とかなんとか謳っている。

メディアの情報も嘘かもしれないが、その陰謀論の内容自体が情報操作である可能性を何故疑わないのか。

人の思い込みの力は凄まじい。

これ以上深堀りしていくと、そのうち陰謀論に思考を汚染されてしまいそうだ。

と思ったとき、新幹線駅に到着した。ナイスタイミング。




地方都市の主要駅。

ピカピカの駅ビルと少し古めかしい地下街、大きなバスターミナル。

最近改築されたこの駅は美しく整備されており、感染症が猛威を振るう状況下においても賑わいを見せている。


ビジネスマン、学生、観光客。多くの人達とすれ違う。

まだ5Gを搭載していなさそうな人に目を向け、心の中でマウントを取る。

俺は最新機能搭載済みの「新人類」だ。どうだ、うらやましいだろう。

なんだか相手から目を逸らされた気がするが、気にしない。

俺は最新モデルだからな。自信に満ちあふれている。


新幹線のチケットを発券する。

自動発券機に発券コードを入力していく。

俺の脳は視界上にメールを表示できるので、手元を見る必要はない。

流れるようにスムーズな入力ができる。


隣の発券機の前に立った男性は、スマホを見ながらたどたどしくコードを入力している。

それに引き換え、俺の発券ボタンを押す指の動きはリズミカルで美しい。

どうだ、これが俺の力だ。

こんなにマウントを取れる機会なんてそうそうない。

今のうちに沢山マウントを取っておこう。




新幹線の改札を抜けると、キオスクが視界に入る。

そうだ、お土産とおやつを買っていこう。

初対面の人に会うとき、地元のお土産は効果的だ。


メジャーではない、悪ふざけに全振りしたようなお菓子を選ぶ。

きっとそんなに美味しくはないが、相手の反応を見て楽しむことができる。

白鈴にはこれがお似合いだ。

と思いつつ、メジャーな土産も買っておく。

滑ったときのフォロー手段を用意していないと、惨事が起こることがある。


お土産の他に弁当とお茶、おやつをカゴに入れていく。

完全に旅行気分だ。そういえば長い間、旅をしていなかったな。

使命は重いが、気分はなんだか浮かれている。


商品の入ったカゴを持って、空いているレジに向かう。

店員によるレジ打ちが終わると、客側に向けられたタッチパネル画面に金額と決済方法を選ぶ画面が表示される。

「ICカード決済」のボタンを押すと、カードリーダーのLEDに光が灯る。


待てよ。5G通信機能が搭載されているくらいだ。

もしかするとキャッシュレス決済もできるんじゃないか。

俺はレジのICカードリーダーに手をかざす。ほんのり温かい。

……何も起きない。


「お客様、スマホ持つの忘れてますよ」


残念ながらキャッシュレス決済は未対応のようだ。

店員に向かって「てへぺろ」の表情をしたが、無表情だ。

改めてスマホをかざすと無事に支払いが完了した。


まだ人間の身体にはNFCは実装されていなかった。

俺の遺伝子に今後のバージョンアップを要望しておこう。




旅行気分で浮かれる俺は、そのまま新幹線のホームへと向かった。

すぐそこまで、死の危険が近づいて来ていることに気づくことのないままに。

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