Function 002: [info] ネットワーク接続済み(VPN経由)
気づけば、5Gの電波を全身に感じることができるようになっていた。
無線強度の高いところに居ると、ほのかに温かい感覚を感じる。
これは狂気によるものなのか。それとも現実なのか。
これから俺はどうなってゆくのだろう。
道命院白鈴。闇の評議会。
意味のわからないことだらけだ。
聞きたいことが沢山ある。
まずは、白鈴の目的を知りたい。
「白鈴、闇の評議会ってのはどんな奴らなんだ。何を目的に、何をしようとしている」
『奴らの目的は人々を自らの支配下に置くこと。何故支配したいのかはわからない。それが人類にとって良いことなのか、悪いことなのかもわからない。でも、少なくとも私達の自由意思を奪おうとしている。だから、私達は自由意志を守るために戦っている。』
自由意志を守るための戦い、か。
『次に、奴らがしようとしていることは”フィルターバブル”を使って、私達が得ることができる情報を制限すること。操作された情報だけを人々に与えることで人の考え方を操作する。自ら手を下さずとも、人々は自分たち自身の”意思”で操作された情報を発信し、同様の考えを持った個人同士のエコーチェンバーで増幅していく。操られていることや、情報が操作されていることには気づかない。彼らは”公開されている情報から導き出した自分の意思”だと思っているから。』
他人を疑うことはできても、自分自身の考えを疑うことは難しい。
巧妙な手段だ。
だが、そんなことが実際に可能なのか。
『既にインターネットはフィルターバブルに覆われている。闇の評議会が作り出したものもあるけれど、多くは大企業や、普通の人が自分たち自身が作り出しているもの。闇の評議会は”インフラ”を用意したに過ぎない。』
「大企業だとか人々が作り出したフィルターバブルをどうにかすることなんてできるのか。規模が大きすぎる。とても俺たち二人だけでどうにかできそうな話には思えない。」
『そう。私達だけでそのシステム構造を打ち破ることは不可能だと言って良い。だけど、その"インフラ"自体を破壊することはできるはず。その結果どうなるかはわからないけれど、人々が自分自身の手でフィルターバブルを打ち壊すきっかけにはなると思ってる。』
フィルターバブルのインフラ。
物理的な部分を叩くということか。
回線やサーバー。
それなら実現可能性がありそうだ。
『まずは”相互接続点”へ向かって。そこにフィルターバブル構造を破壊できる鍵があるかもしれない。それに、ここは通信速度が遅すぎる。』
「5Gは高速通信なんだろ?誤差の範囲じゃないのか。」
『相手はどんな手を使ってくるかわからない。5Gアンテナが無効化される恐れもある。リスクは低い方がいい。』
5G基地局に反対するデモの話を聞いたことがある。
そういうことか。
「それで”相互接続点”ってのは何処にある?」
『国の機密だから公にはされていない。でも、日本の相互接続点は東京に集中しているし、巨大なネットワーク・インフラを構築できる地点は限られている。それに一箇所、怪しい場所を見つけた。そのネットワークを中継したとき、通信が一瞬乱れることがある。これは直感だけど、そこに何かがある気がする。』
その地点に行けば物事が良くなる保証はない。
だが、ここでじっと待っておく必要もない。
「わかった。そこへ行こう。」
早速新幹線のチケットを買おう。俺はスマホを手に取る。
『そんなことしなくて大丈夫。”FireF○x”を起動することを頭で思い浮かべて。』
FireF○x?ああ、俺の脳内OSか。くそ、やはり気が狂っている。
脳内にデスクトップのイメージが浮かぶ。狐のマーク。かわいい。
ああ、本当にインターネットに接続できてしまった。俺は一体何者になってしまったんだ。
『このネットワークは、私の脳を通して接続されている。私がフィルタリングしてるから、あなたの現在地や脳のIPアドレスは向こう側には伝わらない。それと同時に敵からの攻撃も防ぐこともできる。』
「”ルーター”って言葉通りだ。すごいな。」
『まあ、そこから名前をとってるからね。遊び心は大事。』
「じゃあ、検索ワードを入力しよう……すごい、文字を一瞬で打ち込める。便利。」
『待って。【自主規制】は既にフィルターバブルの影響下にある。そこを使うのはやめて。昔は善良で優秀な検索サイトだったけど、今は企業サイトとマルウェアが潜む、自動生成されたスパムページばかりになってしまった。』
「でも俺はそこ以外の検索エンジンを知らないぞ。せいぜい昔、何処だかの”カテゴリ検索”を使ってたくらいだ。」
『任せて。いくつか良いサイトがあるから教えてあげる。』
アヒルマークの検索エンジン。
使ってみると、飾り気はないし、対して便利でもないし、別にアヒルがそんなにかわいいわけでもない。
ただ、役立つ個人サイトやブログがヒットする。この点だけで優秀なサイトと認定できる。
試しに動画サイトにアクセスする。
4K、120fpsの動画がサクサク表示される。
「すごい!読み込みがめちゃくちゃはやい!」
『5Gは下手な固定通信より早いよ。……私の接続帯域使ってるんだから、もうちょっと遠慮してくれない?』
「すごい!画面がでかい!ほら、ねこ!ねこ!目の前にいる!かわいい!あー、あー、なでれ……ない!つらい!」
『そろそろ接続切って良い?』
自分の身体に5Gが備わっていることを体験して、すこしはしゃぎすぎてしまった。
なんだか少しワクワクしてきたぞ。
俺は白鈴の回線を使い、脳から直接JNRおで○けネットに接続する。
東京までの新幹線の自由席券を買う。あっさりとクレジットカードの決済が通る。
ところで俺の身体には技適マークはついているのだろうか。
総務省から違法無線機器使用の咎を責められてしまうのではないか。不安が募る。
『東京についたら、まずは私の所に来て。場所を案内する。』
了解。とりあえず旅の支度をしよう。
おやつに芋けんぴを持っていこう。
注意:
別にG社を悪く言うつもりはありません。むしろ、ずっと信者を続けています。
検索で雑多でカオスな個人サイトや、ブログが引っかからないのがちょっと嫌なだけです。