表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/20

Function 018: [info] "元気してた?"






<まもなく終点、東京です……中央線、山手線、京浜東北線……>






俺の身体は、化繊で織られた布のシートの上。

周りから、「がさごそ」「どん」と、キャリーケースを下ろす音がする。




車窓から見える街の姿の縮尺は狂っている。

キャンバスサイズも、解像度も桁違い。


地平線一杯に広がるビルの海。

見上げるために、首を動かさなければならない、超高層建築。


在来線が横に見えたときの、不思議な気持ち。

無秩序な配置と、無秩序で彩られた、屋外広告たち。


けれど、これはきっと、現実だ。

俺の目に映るこの街のスケールは、いつ来たときでもバグっている。






あの記憶は、何だったのだろう。




地下街の湿った臭いと、殴られた痛み、香水の臭い。

薬品と、鉄が混ざった臭いの手術室、壁一面の、蒼い色。




セピア色の暖かい光と、優しくて甘い匂い。

また、会いたい人が、そこに居た。


彼女は、大丈夫なのかな。

俺は彼女を、泣かせてしまった。

それが創られた記憶だとしても、辛くなるのは、何でだろう。




食べ終えた弁当殻を入れたビニール袋が足元に転がっている。

このおにぎりは、美味しかったな。


中身は、昆布と梅だった。

梅を先に食べたのが悔やまれる。


最後に食べたほうが後味がさわやかだった。

次からは、そうしよう。


また、食べる。


生きて、また、食べてやる。




そんな記憶が、残っている。






『おっす』


「おっす」




『元気?』


「まだ、死んでない」


『なら、良いや』




「元気してた?」


『まだ、生きてるよ』


「なら、良いや」






少し無言になったけれど、別に気まずいわけではない。

ただ心の中で、ホッとしているだけだ。






「……だいぶ脳をこねくり回された気がするんだけど、俺の記憶は何処まで信頼できるのかな。」


『全部、事実。』


『あなたは、その全てを経験している。』




少し、無言になる。

先ほどとは、違う無言。




「……あの女性ひとは、埋め込まれたものだと分かるけれど、死ぬまで殴られて、頭にドリルをつき立てられて、ブギーな気持ちになった記憶は、何だったんだ。」


『その記憶も、事実』




なるほど事実か。

事実かあ。


事実?






『その女性も、実在した』


『今、ここに居るあなたの肉体が経験した記憶では無かっただけ。

 あなたが他の人物の肉体で経験したことと、過去の記憶だね。』


他の人物?


過去の記憶?




『奴らは、あなたの人格を、抹殺しようとしていた。


 侵入経路は、オーディオデバイス・ドライバの脆弱性。

 アナウンスのノイズに紛れて、実行コードが送信されていた。


 そして、あなたの人格を他の誰かの脳に繋いだ。

 あなたの人格自体を破壊しようと試みていた。』


『人格さえ殺してしまえば、肉体はただの肉の塊。

 ただのゾンビになる。』




その人の器は、どうなってしまったのだろう。

その人の心は、何処へ行ってしまったのだろう。




あの人たちは、何故無視されていたんだろう。






『誰も見ようとしない、言及したくない存在は、無視されるから。

 わざわざ、苦労して視覚や聴覚を乗っ取らなくても、

 そういうラベルを付けて、フラグを立ててやるだけで良い。』




『そういうふうに、作られている世界だから。』


そっか。






「攻撃してきた連中は、どうなった?」


『全員、この世からいなくなった』


『全員、抹殺した』






なるほど、抹殺したのか。


抹殺かあ。




そっかあ。








少し、無言になった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ