Function **7: [ダンプデータ ***の海馬_*0**.*1.1* **:57:** ] 扉は、橙色。蒼い色の、ユニフォーム。
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扉は、橙色。
蒼い色の、ユニフォーム。
忙しなく、誰かと誰かの声が耳元に響いている。
会話は早くて事務的だけれど、落ち着いている。
口は、動かない。
眼球は、動く。
表情は、動かない。
白、照明、青緑。
記憶の断片が、繋がっていく。
血が、赤い。
赤の補色は、蒼い色。
赤が際立つ、青緑。
[*ログ欠損*]
痛みはない。
むしろ、心地良さすら感じられる。
開放感。困惑。不安。よくわからない何か。
[*ログ欠損*]
私は、何故ここに居るのだろう。
その瞬間、[*ログ欠損*]
今この瞬間、[*ログ欠損*]
見ている景色が変わっていく。[*ログ欠損*]
透けた青。深緑、臙脂色。
見慣れない色が、沢山ある。
日常にはない、コントラスト。
フェードインのない、スライドショー。
痛みはないが、気持ちが悪い。
強い振動が、頭に響く。
感覚はないが、映像がぼやけてきている。
[*ログ欠損*]
うーん。
ああ、わかった。
手術室。
何故そうなっているかは分からないが、ヤバそうなことは、何となくわかる。
ドラマで見たような景色だが、これはカメラで撮っても画にならない。
よくわからない、現代アートを見たときの感覚が近い。
どうやって売るのか特に気にせず、勢いだけで書いたようなやつ。
死ぬかもしれないけど、折角ならこの景色を堪能しておかなきゃ損だ。
後悔よりも、生き延びた後のネタを探さねば。
こんな土産話、なかなかないぞ。
冥土の土産にも、最適だろう。
きっとあの世はブラックジョークに満ち溢れている。
終幕は、ブラックアウトで終わるのかもしれないが。
せめてスタッフロールくらいは見たいものだ。
最後まで、席に座っておきたい。
歯に打撃を与える、弾け残りのポップコーン。かつてコーラだったはずの氷水たちと、最期まで。
[*ログ欠損*]
脳がシェイクされている。
ブギーな胸騒ぎがする。
不思議と、[参照エラー]ている。
けれど、伝えられない。これは、「日本語で考えている感覚」ではない。
言語では表せない、"何か"で考えている。
その思考速度は、圧倒的。
この行間で、断片的だけれど、楽しかった記憶を、いくつも思い出せた。
しょうもないことしか無いので、言語化しない。
けれど、フフッと笑えたから十分だ。
[ログ欠損]
心残りがある。
最後に食べた夕飯が、コンビニおにぎりなのが、気に入らない。
こんなことになるなら、普段から美味しいものを食べておくべきだった。
高級なものじゃなくていい。
スイートポテトが食べたいな。
いやいや、紅はるかの焼き芋が、最高だ。
皮に少し塩味がついていると、なお良いな。
[ログ欠損]
コンビニでしか飯が買えないような時間にしか帰れない、あの会社が悪い。
もし死んだら、あのモラハラ野郎の枕元で、ずっと甘い言葉を呟き続けてやる。
「元気ですか」とか、
「永遠に愛し続けます」とか、
「頑張って」とか。
優しい言葉にしておいてやる。
私は、慈悲深いからな。
もしヤツが転生したとしても、私はずっと背後霊として、取り憑き続けてやる。
飽きるまで。
[ログ欠損]
******、****い。
[ログ欠損]
私が生き延びたとして、この感覚を誰かに伝えることはできるのだろうか。
この眼に映る景色のピクセル座標と、色を記録したとしても、そんな莫大な情報、伝えきれないし、受け止めきれない。
[ログ欠損]
**、おつかれさま。
「」
******、*********。
「ありがとう。」
[ログ欠損]
kernel: [*.**4**4] Kernel panic – not syncing
[ログ欠損]
kernel: [*.*****0] Kernel panic – not thinking
"
[info] 致命的エラー: メモリ不足によりプロセスの実行が中断されました
「おはよ。」
……今何時?
「7時30分だよ。」
まだ、ねむい。