第16話 初めまして。まあ、話でもしようよ。お茶でも飲みながら、さ。
N3k0H@ck: Function_D93
-force -t:"Croquette16@Alt-Z"
実行しますか?(Y/n)
n
大文字で、"Y"と入力するだけで、この男は死ぬだろう。
呼吸困難で、苦しみながら、死ぬだろう。
俺がそれを入力するだけで、今、俺の後頭部を、全力で殴りつけている、下品な香水の臭いがする、この男の横隔膜は動かなくなる。
それは、今の俺からすれば、喜ばしいことだ。
一秒でも早く、死んでほしい。
苦しみ抜いて、死んでほしい。
痛い。
横隔膜が、引き攣るのって、どんな感覚だろう。
いたい。
血液に、酸素が回らなくなったら、どれくらいで失神するんだろう。
痛い。
脳溢血や、心臓発作の方が、痛い思いをさせられたかな。
いたい。
俺は、もう間もなく、意識を失うだろう。
もう、「痛い」という感覚は分からないが、殴られていることを認識するために、その言葉を思い浮かべている。
俺は、もう間もなく、死ぬだろう。
それなのに、思考は、限りなく透明だ。
限りなく、冷静になっている。
限りなく、時間が遅く感じられる。
限りなく、過ぎていく時間に対しての思考の速さが、早くなっている。これが、走馬灯か。俺の思考をハックしている奴は、何故、俺を煽っている?俺を殺すためだけなら、煽る必要など< ワタルくんは >ない。痛い。ただの自己満足だけで、< 頑丈だねえ。 >こんなに人を、煽る人間が居るのだろうか。いたい。 俺を 陥れる< 無駄に、ね。 >ために 煽っている。 いた< 天国ってどんなところなのかなあ? >い 俺に この手で人を殺< きっと、良い所だと思うよ。 >した罪悪感を植え付けようとしている いたい いたい
いた< 多分さ、ワタルくんは天国に行けると思うんだよね。 >い 限< 無意味だったけど、君は良い人だったね。 >界が近い
無意味なこと< 本当に、無意味な人生だったね。 >などあるものか。
認めるよ。
お前にとっては無意味だろうな。
でも俺は、俺のために生きているから、お前の、その根拠のない感想なんてどうでもいいんだ。
< 早く死になよ >
嫌だ。
そもそも、お前、誰だ。
< 死ねよ >
お断りします。
必要であれば、理由を、一から説明いたしましょうか?
< お願いだから、死んでくださいませんか? >
いやどす
簡易な言葉で説明した方が、良いですかね。
< 君は、死んだほうがいいと思うんだよね。 >
貴重なご意見を賜り、大変有り難く存じます。
頂いたご意見につきましては、前向きに検討する所存でございます。
"ねこはっく"のコマンド一覧を横目に見る。
……ああ、面白そうな機能を見つけてしまったぞ。
”ねこはっく”は、万能だな。
俺には、全ては使いこなせないが、この機能を使えば、今までの経験を活かすことが、出来るはずだ。
< 生きててもさ、 <<1NT3RC3PTR@Me:-#
N3k0H@ck Function_016:[info] 初めまして。まあ、話でもしようよ。お茶でも飲みながら、さ。
[info] ユーザー "H@tsuKak1k0@Alt-Z" に接続しています
[info] 温かいお茶を用意しています……
[info] ユーザー "H@tsuKak1k0@Alt-Z" のプロセス [思考言語] のオーバーライド に成功しました。
>> 辛いだけだろ。<<1NT3RC3PTR@Me: まあまあ。落ち着けよ。茶でも飲んでマターリ汁。>> >
< さようなら。 <<1NT3RC3PTR@Me: (きこえますか…あなたの心に直接呼びかけています) >> ワタルくん >
< <<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか。 >> ……君に恨みはないけれど、死んでほしいって、
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか。 >>
……。心から願っているものだよ。 >
一瞬、言い淀んだ。
飄々とした口ぶりだが、動揺しているな。
俺の持つ最強スキル、”同語反覆”の出番が、来たようだ。
< <<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか。 >> あはは。ワタルくんはついに、狂ってしまった
<<1NT3RC3PTR@Me: 私は、正気ですよ。 >>
……。
みたい、だね。 >
< <<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか >> 話を聴いているかい?ワタルくん。馬鹿なのかな?
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか >>
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか >>
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたは誰ですか >>
ワタルくんの頭は、殴られすぎてどうにかなっちゃったんだね。
ああ、もともとかな。
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはわたしですね >>
無意味な会話はやめろ。
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはわたしですか >>
<<1NT3RC3PTR@Me: わたしはあなたですか >>
やめろ。
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはあなたですか >>
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはあなたではありませんよね >>
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはあなたであり、あなたではありません >>
馬鹿言うな。僕は、<<1NT3RC3PTR@Me: 違いますよ。 >> 僕だ。
<<1NT3RC3PTR@Me: そう思ってしまうのは仕方ありません。
でも、あなたはわたしですよね >>
やめろ。黙れ。
死ね、ワタル。死ね。
<<1NT3RC3PTR@Me: わたしはわたしですが、あなたではありません。 >>
<<1NT3RC3PTR@Me: でも、あなたはわたしです >>
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはあなたではありません。 >>
<<1NT3RC3PTR@Me: そうですよね? >>
やめろ、黙れ。今すぐ息の根を止めてやる。
<<1NT3RC3PTR@Me: 今は言語ではなく、脳の神経を直接接続しているから、次に殴られるまでの時間の間に、長いティータイムを過ごせますね。本当に、ありがたいことですね。>>
黙れ
僕はこのまま、君を無視することだってできるんだよ。
<<1NT3RC3PTR@Me: 無理ですよね。だって、あなたが私に接続していなければ、あなたの作戦は失敗しますから。 >>
君は、あと数回のパンチで死ぬ運命だ。
僕がいなくても、お前は殺せる。
問題ない。
<<1NT3RC3PTR@Me: では、何故接続を切らないんですか? >>
問題ない。
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたがこの回線を切れば、この会話を終わらせられますよね。 >>
問題ない
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはあなたですか >>
ああ
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたはわたしですか >>
もうやめろ
<<1NT3RC3PTR@Me: わたしはあなたですか >>
やめてくれ
もう終わりにしてくれ
<<1NT3RC3PTR@Me: あなたは >>
[info] ”H@tsuKak1k0@Alt-Z” が あなた からログアウトしました。
[info] 不正なログインを 2件 検知しました。
[info] ”Nr0mnc3r@Alt-Z” が あなた からログアウトしました。
[info] ”Croquette16@Alt-Z” が あなた からログアウトしました。
< [info] プロセス [思考言語] の状態が 正常 となりました。 >
< [info] "海馬"へのアクセス権を ****年**月**日 **:**:** の状態に復元しました。 >