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なまりを隠したい福島さん

作者: しいたけ

 季節外れの転校生に、期待が高まらない訳もなく。

 担任が咳払いを一つ、しかし騒ぎは収まらない。


「シャラッピィング!!」


 英語教師の角田は騒がしいクラスを一喝し、改めて小さく咳払いをした。


「転校生の福島めぐみさんだ。仲良くな」


 黒髪の、伸びた髪が顔を隠す。

 見た目は大人しく、まるぶち眼鏡の奥には穏やかな瞳が怯えるように輝いていた。


「よ、ヨロシクおねが……ます」


 聞こえるかどうか。

 それは際どい挨拶だった。


「福島さんは何処から来たんですかー?」


 やんちゃそうな男子から質問が上がる。

 福島さんは驚き、もじもじと指をスカートに埋めた。


「ふ、ふくシマ……だす」


「『だす』たってさ! 福島の何処からですかー?」


 同じ男子から更なる追求があがる。


「そういう事は後でな」と、角田が止めたが、福島は「ど、土井中……」と小さくこたえた。


「土井中?」

「どいなかって何処?」

「聞いたことないよ」

「なにそれ」


 様々な声があがるが、どれも福島の居た地域を知らないとばかりに、くすくすと笑った。



 休み時間になると、福島の周りに人が集まったが、コミュニケーションが苦手な福島。

 会話に苦労している間に、一人また一人と去って行く。

 昼休み前、既に福島は一人になっていた。



「緊張するだろ」


 福島の隣の席の男子、高崎が声をかけた。

 運動部とは無縁の長髪。高崎は帰宅部の鏡だった。


「俺も昔コッチに来たんだ。気にすることないさ。始めは俺もバカにされた。でも直ぐに無くなった。みんな飽きるのが早いからな」


 福島は無言で会釈をした。

 自分と似たような境遇の人が居る。

 それだけで福島はとても心強くなれた気がしたのだった。


「なまり。気にしてるんだろ? 俺は良いと思うけどな。どうせこの学校の誰だって、都会に行けばなまりに聞こえるんだし」


 福島はこたえなかった。

 少数たる自分は何処へ行っても馬鹿にされる。

 そう言われたような気もしたのだ。



「よ、高崎。飯食おうぜ」


 茶髪の女子が高崎の肩を叩く。隣のクラスの群原だ。

 群原は気さくな感じで「お、噂の転校生?」と、福島に笑いかける。

 そして高崎の目を見て上を指さした。


「行こうぜ、屋上」


 高崎が返事をする。

 ふと、高崎が福島に声をかけた。


「一緒にどう? ココよりは良いと思うよ」

 

 福島はどう返事すべきか悩んだ。

 《はい》か《いいえ》ではなく、どういう言葉で《はい》と伝えるかをだ。


「無理に言葉を使わなくてもいいさ。来るなら無言でおいで。気にしないから」


 そう言われて幾分か気が楽になった福島は、無言で高崎の後を追った。

 屋上は晴れやかで気持ちが良かった。



 福島はそれこそ特定の友人が出来ないままであったが、時折高崎が声をかけてくれた。

 助け船のような高崎の声に、福島は救われるような思いを重ねていった。

 次第に、福島は高崎を目で追うになっていた。




「高崎、メシ行こうぜ」

「ああ、ごめん。今日は福島とちょっと……」


 ()()()()

 それが良くなかった。

 なんてことは無い。普段のお礼に福島がお弁当を作ったのだ。

 高崎は福島が恥ずかしがると思い、人気を避けたのだが、それが裏目に出た。


「ふぅん……」


 疑いの眼差し。そして焦燥。

 沸騰した飴が焦げつくのは一瞬。

 群原の心には甘い飴が怒りで沸騰し、あっという間に焦げ付いたのだった。



「なにあれ」


 屋上の隅でお弁当を広げる福島と高崎を見付けた群原が、ぐいぐいと歩み寄った。


「ふぅん……私の目を盗んで何やってるの?」


 それは福島に向けられた言葉だ。

 激しい憎悪と嫌悪、そして嫉妬が混ざらない絵の具のように、ぐちゃぐちゃと複雑に色を見せていた。

 福島は怯えるしかなかった。

 群原の心の内を知ったのが、今この瞬間だったから他ならないからだ。


「群原。どうした? 一緒に食べるか?」

「ふざけないで!!」


 高崎が差し出したおにぎりが、遠くへと転がった。

 何故と言わんばかりに、高崎の目が群原を見つめる。


「この田舎娘が泥棒猫みたいな真似しやがって!!」


 福島に掴みかかる。

 言葉にならない謝罪と否定が、福島の口から僅かにあがった。


「聞こえねぇよクズが!! グズグズ気持ち悪ぃな!!」

「……ご、ごめんだす! ごめんだす!」


 始めて耳にする福島の大声。

 しかしそれでもその声はまだ小さかった。


「止めろ群原! 何してんだ!! 福島が何をした!?」

「この女が高崎の事好きなの知ってんだろ!!」


 群原が高崎に笑った。

 まるで全てを台無しにしたかのように。


「そんなわけないだろ……?」


 高崎が福島を見る。

 福島は腕を押さえて震えている。


「田舎育ちの気持ち悪ぃ女が弁当で気を引こうなんざ千年早ぇんだよ!!」

「──おい!」


 高崎が止めるより早く、群原が弁当を頭上高く上げた。








「 توقف أرجوك!! 」





「……ん?」

「……え?」


 弁当を天高く上げたまま、群原の目が丸くなった。

 高崎も同じく目を丸くしている。



「ماذا فعلت! ؟؟ نا فقط أريد أن أتعايش مع الجميع! لماذا تولد وتنشأ أحمق! ؟؟ لماذا تخاف الفارس! ؟؟

لماذا ليست قصة الكوماندوز مجنونة! ؟؟」



「落ち着け福島……!」

「わ、わかったわかった!! なんだか分かんねぇけど何となく分かった! 私が悪かったよ!!」


 福島の気迫溢れる台詞に、群原はお弁当を静かに降ろした。

 転がったおにぎりも拾い上げ、砂を取って群原は食べ始めた。


「思ったより気の強い奴だな。気に入った」

「あ、ありがとだす……」


 群原のそれまでの怒りは何処へやら。

 すっかり二人は打ち解けて、仲良くお弁当を食べ始めたのだった。


「な? なまりなんて気にしなくていいだろ?」

「う、うん……」

「今度教えてくれよな」


 福島が、笑顔でこたえた。


「そう言えば高崎も昔コッチに引っ越して来たんだよな? なまり聞かせてくれよ」


 群原が唐揚げを食べながら気さくに問う。

 高崎は恥ずかしそうにしながらも、口を開いた。




「ကြက်သားကြော်များကိုသံပုရာရည်မဖြန်းပါနှင့်」




「さっぱりだ……お前分かるか?」

「さっぱりだす」


 高崎は泣きながらおにぎりを食べた。

 そして卒業したら東京でミュージシャンになると決意した。


 しかし、東京でも彼の歌は「何歌ってるか分からない」と言われ、泣いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] たったの一行で前半の一切が前フリに過ぎなくなる展開に驚きました。 よく言う「12か国語ペラペラ」とかって、たいがいほとんどが良く似たヨーロッパ圏の言語だから「日本語とスワヒリ語と中国語とラ…
2021/05/22 08:22 退会済み
管理
[一言] そう言えば、太平洋戦争中、アメリカ軍が解読に1番苦労した日本軍の暗号は、無茶苦茶なまりのきつい薩摩弁だった、みたいな話しを聞いたことがあります。
[良い点] なんだかめちゃくちゃ良き話! しかし彼はどこの星から来たの?UFO! でもリアル方言ってのはああいう感じです そういえば新潟弁を操る外国人タレントが いましたね [気になる点] >高…
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